最近注目のジビエって何? 種類とおいしいジビエ料理について解説
その栄養価の高さから、近年注目を集めるジビエ。ジビエとは、狩猟された野生生物の肉のことを言い、牛肉・豚肉・鶏肉に次ぐ食材としてレストランで振舞われたり、スーパー等でも高級食材として販売されるなど注目度が上がっています。
鹿肉や鴨肉が代表的ですが、調べてみると種類は多く、調理法や料理も様々です。本記事では、ジビエの種類や食べ方などを紹介しています。ジビエの歴史やSDGsとの関連についても詳しく説明しているので、参考にしてみてください。
- ジビエはフランスの狩猟が発祥
- 日本で食べられるジビエは48種類
- 高タンパク・低カロリーでヘルシー
- ジビエを食すことで鳥獣被害対策やSDGsにつながる
- 購入するときは許可を取得しているお店を選ぶ
この記事でわかること
ジビエとは
ジビエとは、畜産などで飼育された家畜ではなく、狩猟で捕縛した野生動物を食肉とすることを言います。
フランス語で “ gibier ” と表記し、野生鳥獣肉という意味があります。フランスでは、古くから親しまれてきた食材で、貴族の料理として食べられてきました。
畜産が一般的になり、安定した肉の供給が増える中で一時期はジビエを食べる人は減りました。しかし、貴族の趣味として狩猟が広まったのをきっかけに、ハンティングで捕縛した肉を食べるようになり、現在もジビエ文化が伝わっています。
本来は完全な野生動物を指すジビエですが、供給が安定しないことから、餌付けした野生動物もジビエと呼ぶことがあります。そのため、ジビエ食が根強いフランスでは完全に野生であるジビエを「ソバージュ」、餌付けなどをされた半野生であるジビエを「ドゥミ・ソバージュ」として区別しています。
ジビエの種類
ジビエにはさまざまな種類がありますが、今回は比較的多く食べられているジビエの種類を紹介します。
鹿(シカ)
ジビエの中でも、鹿肉は日本でも親しみがあるポピュラーな食材です。日本では、エゾシカやニホンジカ、ホンシュウジカなどが主にジビエとして食べられています。肉質は牛肉の赤身に近く、淡白な味わいなのが特徴です。脂質が少なくヘルシーで、鉄分が豊富なため、貧血や冷え性などの予防・改善効果も期待できます。
猪(イノシシ)
猪肉は、豚肉に似ているのが特徴です。柔らかな脂身がジビエ好きから特に好まれており、あっさりとした甘みが感じられます。カロリーや脂質は豚肉とさほど変わらないものの、栄養価は非常に高く、鉄分、ビタミンB12は豚肉よりも多く含まれています。健康や美容にも効果が期待できる食材です。
熊(クマ)
日本でジビエとして食べられているのはヒグマやツキノワグマが多いです。人里に降りてきてしまったり、熊害を起こしてしまった個体を狩猟したものをジビエとして消費しています。
獰猛で肉食のイメージがある熊ですが、果物や木の実も食べる雑食性です。冬眠前には果実や木の実をたくさん食べるため、夏場に狩猟された熊肉に比べて味が良くなると言われています。狩猟数の関係で流通量は非常に少なく、滅多にお目にかかれないジビエと言えるでしょう。一方で、一度食べると忘れられないという声もあり、熊肉をこよなく愛するファンも多いジビエです。
鴨(カモ)
フレンチによく登場する鴨肉は、本場・フランスではビストロでも提供される人気のジビエです。野生のマガモ、アヒル、アイガモなどがジビエとして食べられており、柔らかく仕上げたアイガモのローストやソテーは絶品です。日本では和食に用いられることが多く、鴨南蛮や鴨せいろなど蕎麦のメニューとして目にすることが多いです。脂に甘みと旨みがあり、クセも少ないのでジビエを初めて食べる人でも挑戦しやすいでしょう。
雉(キジ)
雉は日本で古くから親しまれてきたジビエのひとつです。日本の国鳥である一方、高級食材として古くから献上品としても用いられていました。
鶏などとは異なる独特な風味と食感がありますが、味わい自体はさっぱりしており、出汁やタレで煮込む、鍋やスキヤキなどの調理方法が好まれます。人間に餌付けされているものならともかく、野生の雉はほとんど流通することがないため、高額で取引されるのも特徴のひとつです。
兎(ウサギ)
ジビエの本場フランスでは、メジャーな野生動物の食肉として扱われている兎。淡白でさっぱりした味わいと、フワッと口の中で繊維がほどけるような柔らかな食感が特徴です。
フランスでは、完全な野生の兎は「リエーブル」、食用として畜産された兎は「ラパン」と呼び分けられており、それぞれに味や食感が全く異なります。
鴉(カラス)
農作物やゴミを漁るイメージの強い嫌われ者の鴉ですが、ジビエのなかでは高級食材として扱われています。鶏肉よりも締まりが強く歯ごたえを強く感じられ、独特な風味を持っています。
雑食性のため臭みが気になる人も多いですが、意外と臭みやクセはありません。ただし、肉がやや黒味を帯びているため、初めて食べる人は一瞬躊躇してしまうことも多いです。
その他のジビエ
その他にもジビエにはさまざまな種類があります。
ヌートリア
ヌートリアは、カピバラやビーバーに似た見た目を持つ外来生物の一種です。日本でも湖や沼、流れの穏やかな川の近くなどに生息しており、主に西日本に生息しています。
ジビエとしてのヌートリアは、淡白ながらも柔らかく上品な味わいが特徴で、中華料理などに用いられることもあります。
アナグマ
アナグマは「幻のジビエ」と呼ばれる程流通量が少なく、1頭から摂れる肉もほんのわずかです。そのため、多くは猟師のなかで消費されており、一般市場に出回ることは殆どありません。
冬眠を前にしたアナグマは、甘く上質な脂肪を豊富に蓄えていると言われており、特に絶品です。
アヒル
北京ダックなどでもお馴染みのアヒルも、ジビエの一種です。フランス料理でも食材として扱われることが多く、半野生状態で人間に餌付けされながら生産されているケースも少なくありません。
ジビエと畜産肉は何が違うの?
ジビエも畜産肉も同じ食用肉ですが、ジビエにはジビエならではの、畜産肉には畜産肉ならではの特徴があります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
ジビエは高タンパク低カロリー
ジビエは基本的に野生として生きている鳥獣を指します。そのため、野生動物として天然の餌を食べて育ってきたものが殆どです。自然界には、高カロリーな食べ物はそれほど多くありません。また、必ずしも充分な餌を食べられるという保証もないです。必然的にジビエは脂質の少ない肉質になりやすく、高タンパク低カロリーなものが多いと言えるでしょう。
一方、畜産肉は人工の配合飼料を与えて飼育しています。高カロリーの飼料を与えることで成長までの期間を短くしたり、人間の好みの肉質や味わいにするため、ジビエに比べると高カロリーなものが多い傾向にあります。
ジビエはしっかりした歯ごたえ
野生動物は、他の動物から身を守ったり餌を摂ったりするために自然の中を動き回っています。そのため、畜産動物に比べて身が引き締まり、歯ごたえのある食感のものが多い傾向にあります。
一方、畜産動物はリフレッシュや健康維持のために放牧されることはあっても、敵から逃げたり食べ物を探し回ったりする必要はありません。そのため、比較的柔らかく脂がのった肉質になりやすいです。
ジビエは栄養が豊富
ジビエは、高タンパクで低カロリーなだけでなく、さまざまな栄養が豊富に含まれている点も特徴のひとつです。畜産肉と比べた際に秀でている部分も多く、アスリート食やダイエット食としても注目されています。
例えば、鹿は運動量が特に多いため筋肉の発達が著しく、高タンパクで低脂肪な肉質が特徴です。鉄分の含有量も非常に多く、オメガ3脂肪酸(α・リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA))やオメガ6脂肪酸(リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸)も含まれています。
その他、猪肉はカロリーや脂質だけを見ると豚肉とさほど変わりはありません。しかし、鉄分は豚肉のおよそ4倍、ビタミンB12は豚肉の約3倍含まれています。
猪肉の脂の成分は不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、体内に溜まりにくい良質の脂としてさまざまな健康効果が期待できます。
風味は?香りは?ジビエはくさい?
ジビエは 臭い・クセがある、というイメージを持っている人も少なくありません。たしかに、牛肉や豚肉、鶏肉に比べると個性はあるものの、最近のジビエは独特な味わいやクセは少なくなってきています。その理由は、ジビエを適切に処理する仕組みにあります。
これまでは、解体技術や設備が不十分だったため、ジビエならではのクセを解消できず特有の獣臭さを感じることが多かったです。しかし、厚生労働省や農林水産省もジビエを推進し始めたことで適切な処理方法や処理設備が整ってきており、ジビエを美味しく処理できるようになってきました。
ジビエ料理を得意とする料理人も増えたことで、調理の幅や味わい、香りまでもが変わり、ジビエの良さを感じられるようになったのもジビエ人気の理由のひとつです。先入観は一度置いておいて、チャレンジしてみるのをおすすめします。
ジビエの調理方法4つ
ジビエは飲食店はもちろん、自宅でも食べられる食材です。販売しているお店が増え始めていて、近くのスーパーで購入できる場合もあります。食べる方法と合わせて、調理方法もチェックしていきましょう。
1.煮込み・鍋
ジビエの中には、加熱すると身が硬くなるものも多いため、長時間じっくりと加熱する煮込み料理や鍋料理に適したものが多くあります。
日本でも、熊や雉、猪などは鍋として古くから食べられてきました。その他、猪や鹿はカレーにするのもおすすめですし、兎はフランスの煮込み料理であるコンフィとして食べられることが多いです。
2.ステーキ
畜産肉のように脂ののったものは少ないですが、身に噛み応えがあり特有の風味を持つジビエは、シンプルにステーキにすると味わいをより楽しめます。
ジビエのなかでも脂肪を比較的多く持っている猪は、ステーキとして食べるのに最適です。また、鹿もじっくりと低温で加熱すると味わい深いステーキとして食べることができます。
3.パテ・ソーセージ
ジビエ特有のにおいが苦手な場合は、他の材料と混ぜ合わせてパテやソーセージにして食べるのもよいでしょう。パテはフランス料理で用いられる調理方法です。ジビエはフランス料理で古くから用いられてきた食材であるため、パテとして食べられることも多かったと考えられます。
兎や鹿、猪など、パテはどんなジビエとも相性の良い調理方法です。
4.ロースト
加熱することで肉質が硬くなりやすいジビエは、じっくり蒸し焼きにするローストで調理して食べることも多いです。
特に、鹿や鴨などは時間をかけてじっくりローストすることで、持っている旨味や風味を最大限に活かすことができます。
ジビエを食べる時の注意点
今や家庭でも気軽に楽しむことができるジビエですが、食べる時にはしっかりと加熱する必要があります。
畜産肉は、食用を前提として寄生虫対策や感染症対策などを行いながら育て、人体にとって有害になることのないよう工夫して流通しています。そのため、鮮度の良いものであればレアやミディアムなど、生の食感を残したまま食べることができるものも少なくありません。
しかし、完全に野生化で育ったジビエは、衛生管理などがされておらず、生のまま食べると寄生虫や細菌などによって食中毒や感染症を起こしてしまう可能性もあります。
ジビエを食べる時には、これらのリスクを避けるためにもかならず中心部までしっかりと加熱してください。
ジビエを味わう意義とメリット
ジビエの人気や普及・推進は、ただ美味しいからという理由だけではありません。積極的に食べることで、農作物を守ったり、地域を活性化させたり、健康な体づくりに繋がるなど多くのメリットがあるからです。
深刻化する鳥獣被害対策になる
農林水産省が発表した「鳥獣被害の現状と対策」によると、令和2年度の野生鳥獣による農作物被害額は161億円で、全体の約7割がシカ、イノシシ、サルとなっています。
水産被害も起きており、カワウがアユなどを食べたり、トドが漁具を壊したりするなどの影響が出ている現状があります。
ジビエの普及は鳥獣被害の対策の一環としての意味もあります。需要が高まることで、捕獲・処理加工・供給・消費のサイクルが機能し、鳥獣被害対策に貢献できるというわけです。
また、ジビエの人気が高まれば、ジビエを提供する飲食店が増えることも予想されます。ジビエの需要・供給のサイクルが機能しやすくなり、鳥獣被害を防ぐために捕縛された野生動物が有効消費されることも大きなメリットです。
SDGs(目標達成)に貢献できる
日本語で“持続可能な開発目標”と表現され、近年耳にする機会が増えた「SDGs」(エスディージーズ)。2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsでは、17のゴール・169のターゲットが定められています。
17のゴールのうち、以下の3つがジビエに関係すると言われています。
- 2 飢餓をゼロに
- 12 つくる責任 つかう責任
- 15 陸の豊かさも守ろう
ジビエ消費を定着させることで、新たな食材として飢餓を解決するきっかけにもなります。
鳥獣被害対策に貢献し、農村や自然を守ることにも繋がるでしょう。さらに、捕獲した野生鳥獣を処理・流通することは、処理費用の削減にもつながります。
流通しているジビエはまだ少なく、普及はこれからという段階ですが、ジビエ食はSDGsの目標達成に貢献できる取り組みと言えるでしょう。
まとめ
今回は、ジビエの種類について紹介してきました。世界各国で親しまれているジビエ。日本で古くから食べられてきた熊や猪、雉以外にも、兎や鴉などさまざまなジビエがあります。
ジビエは野生動物ならではの味わいや栄養を持つ奥深い食文化です。ぜひ、皆さんもジビエを味わってみてはいかがでしょうか。