十勝の小豆が美味しい5つの理由とは?ブランド品種や特徴も解説
和菓子の定番・餡子やお祝い事に欠かせない赤飯など、日本人の食文化に深く関わっている小豆。日本では北海道産が有名ですが、中でも十勝地方で作られる高品質な小豆が人気です。
この記事では、十勝産の小豆が美味しい理由や十勝産小豆の特徴、ブランド品種などを紹介します。また、十勝産小豆の歴史や「赤いダイヤ」と呼ばれた理由、近年の相場価格についても解説しているので、ぜひ十勝の小豆事情について知りたい人は最後までご覧ください。
北海道は小豆の一大産地
ぜんざいやおはぎ、大福など、和菓子には欠かせない小豆は、日本で古くから食べられてきた豆類のひとつです。特に、小豆を茹で上げた際の赤い色には魔除けの力があると信じられ、祝い事の際には小豆によって赤く炊き上げられた赤飯が現在でも振舞われています。
小豆はアジアで古くから食べられているものの、原産国がどこなのか、祖先種などの詳しいことは未だ分かっていません。古事記にも小豆の記載があり、古くから日本の食文化に根付いていますが、解明されていない部分が多い作物です。現在、中国やアメリカ、オーストラリアなどでも多く栽培されており、日本にも輸入されています。
国産小豆は令和3年度42,200t収穫されており、内39,100tは北海道産です。昔は全国各地で栽培されていた小豆ですが、連作(同じ土地で繰り返し同じ作物を栽培すること)に向かず栽培に広い土地を必要とする小豆は徐々に各地での生産量が減りました。現在では国産小豆の9割が北海道産であり、北海道は小豆の一大産地となっています。
北海道で最も小豆の生産が盛んな十勝地方
北海道が国内最大面積を誇る都道府県であることは誰もが知っているでしょう。広大な大地は小豆の栽培に適しており、中でも十勝地方はさまざまな好条件が重なっています。
北海道で小豆栽培が盛んな地域は、音更町、帯広市、芽室町、幕別町、士幌町などです。小豆は本来寒さに弱い作物ですが、十勝地方の気候や土壌が上質な小豆を栽培する条件を満たしていることから、盛んに作られています。
十勝産小豆の特徴
現在、国産小豆の大部分は北海道産であり、その多くは十勝地方で栽培されたものです。その他、市場では中国やアメリカ、オーストラリアなどの諸外国から輸入された小豆も流通しています。
さまざまなルートから入手できる小豆ですが、十勝産小豆が選ばれるには以下の理由があります。
- ポリフェノールの含有量が輸入品・他の都道府県産のものより多い
- 低温倉庫などによる品質管理が徹底されており保存状態が良い
- 鮮やかな赤色をしている
- 比較的粒が大きい
輸入品の小豆の中には、北海道で栽培されている品種を日本に輸出するために海外で栽培しているケースもあるようです。しかし、十勝地方のさまざまな気候・土壌条件と農家の惜しみない努力で育まれた小豆は、色、味、大きさ全てが別格と言われています。
また、中国で栽培されている小豆は、日本で栽培されている小豆と見た目こそ似ているものの、遺伝子的に別種に近い豆であるものも多いそうです。
十勝で美味しい小豆が作られる5つの理由
十勝産の小豆は高品質で最上級のものが多く栽培されていますが、その根幹を支えているのは十勝の気候と土壌です。続いては、十勝で美味しい小豆が作られる理由を解説していきます。
理由1.昼夜の寒暖差があるから
十勝地方は平地ならではの寒暖差があります。特に初夏ともなると、昼夜の寒暖差が20度近いことも珍しくありません。日中は晴れて汗ばむような陽気を感じていても、日が落ちると北海道の底冷えする寒さが広がります。
小豆は日中の陽気を感じて栄養を作り出し、夜の寒気で昼に作り出した栄養を糖分に変えていきます。そのため、寒暖差の激しい十勝の気候は小豆が効率良く糖度の高い栄養を蓄える条件を満たしているのです。
理由2.土壌が火山性だから
十勝地方は周囲に十勝岳、大雪山、丸山、雌阿寒岳などの活火山があります。現在は活動を休止している火山も周辺に多く、地層を研究すると10万年前の噴火によって火山灰が積もった地層などもあるそうです。
火山灰をたっぷりと含んだ火山性の黒ボク土は、水はけがよく小豆の栽培に適しています。
理由3.日照時間が長いから
北海道は豪雪地域としてよく知られていますが、十勝地方は日高山脈によって雪雲が遮られるため、降雪量はそれほど多くありません。また、春は季節風が日高山脈を越える際に強まり、初夏にかけてカラっとした晴天の日が多く見られます。冬は寒いものの、夏場は比較的気温が高くなるため、寒さを苦手とする小豆の栽培にも適しています。
春から夏にかけて天気が安定しているのも十勝地方が小豆栽培に適している理由と言えるでしょう。特に、4月の日照時間は250時間を超えることもあり、道内では比較的日照時間の長い地域です。たっぷりと太陽の光を浴びた小豆は、豊富なポリフェノールを含みます。また、小豆は日に当たっている間にたくさんの栄養を作っていくため、日照時間が長いほど栄養豊富で大きな実がつくのも特徴です。
理由4.効率的に4年輪作を行っているから
小豆は同じ土地で続けて栽培するのに適さない作物です。続けて栽培してしまうと、土壌の栄養分が足りなくなり、病気が蔓延したり収穫量が減ったりしてしまいます。
1度小豆を栽培した土地は4~5年間隔を空けて栽培しなければいけないとも言われており、お世辞にも栽培効率の良い作物とは言えません。
そこで、十勝地方では同じ畑で4種類の作物をローテーションしながら栽培する方法をとっています。小豆、ジャガイモ、小麦、ビートを順に栽培することで、連作による障害を防ぎ、効率良く農作物を収穫しているのです。さまざまな農作物の栽培条件を満たしている十勝地方だからこそ、4年輪作によって高品質な小豆を安定して生産できていると言えるでしょう。
理由5.台風や秋雨が少ない
本州の秋は台風や秋雨前線などが活発になる季節ですが、十勝ではそれほど多くの雨は降らず台風被害なども少ないのが特徴です。特に10月後半からは気候は安定する傾向が高く、秋から冬にかけて晴天の日を指す「十勝晴れ」という言葉もあります。
小豆は秋に実が成熟するため、台風や秋雨などの影響を受け難い十勝地方では、じっくりと熟成した美味しい小豆が育ちます。
十勝産ブランド品種の小豆
小豆にはさまざまな品種があり、なかにはブランド品として高額で取引されているものも少なくありません。また、品種によって風味やで、味わいも異なり、それぞれに適したお菓子や料理などの食べ方があります。
エリモショウズ
エリモショウズは香りの高さが特徴の小豆です。冬に収穫したものは皮が柔らかく、炊くと実がホクホクになることから粒あんや赤飯などの料理に使われることもあります。
夏が終わり早めに収穫したものは風味が特に強くなり、こし餡に使われることが多いです。
比較的寒さに強いものの、栽培が難しく年々生産量が減少している品種で、「エリモ」の名前は小豆の鮮やかな色味の美しさから「えりも岬」にちなんで名付けられたと言われています。
きたろまん
他の小豆に比べると粒が大きく赤色が濃いのが特徴のきたろまん。特にポリフェノールの含有量が多いと言われており、あっさりとした風味が楽しめます。
きたろまんは他の小豆に比べて病気や害虫に強いと言われており、無農薬で栽培されているものも多くあります。どのような料理やお菓子にもマッチしやすいため、小豆が苦手だという人にも美味しく食べられると評判です。
きたのおとめ
きたのおとめはエリモショウズを品種改良して生まれた小豆です。エリモショウズよりも病気に強く、やや淡い色味をしているのが特徴と言われています。
皮が薄く柔らかいため、粒あんとして美味しくいただけます。また、炊き上げた際に淡く美しい薄紫色が出ることから、色鮮やかな和菓子を作る際にも用いられる小豆です。
十勝地方の小豆の歴史
北海道は広大な土地を活かしたさまざまな農産物があり、それぞれに北海道開拓の歴史と共に歩んできました。
続いては、十勝地方における小豆栽培の歴史についてみてみましょう。
明治時代中期に栽培が始まった
北海道開拓が始まったのは1860年代後半と言われています。十勝地方が開拓され始めたのは明治時代中期頃とされており、徐々に小豆の生産が盛んになっていきました。
取引の数が増えて、十勝地方の基幹作物として小豆が認められたのは1902年頃と言われています。
小豆が「赤いダイヤ」と呼ばれた理由
小豆は歴史のなかで「赤いダイヤ」と呼ばれていた時代があることをご存知でしょうか。十勝で小豆の生産が盛んに行われ始めた1900年代初頭、本州では小豆の需要が高まり始めました。
更に、小豆が連作障害を起こしやすい作物であることが分かるまでは、数年に1度不作の年があったり、自然災害に見舞われて不作になったりすることも珍しくありませんでした。安定して供給できないことも、小豆の需要が高まった要因のひとつと考えられます。
当時は、小豆の価格を自由に設定できたことも相成り、天井知らずの高価格で取引されたそうです。一攫千金を狙って小豆栽培を始める人も多く、「赤いダイヤ」として広く知られました。
徐々に、輪作の体制ができあがり、輸入品なども流通するようになったことから安定した供給が可能となり、赤いダイヤバブルは終わりを迎えました。
【和菓子離れが原因?】十勝産小豆の相場価格が上昇している
十勝の気候と農家の努力の甲斐あって、安定した生産が可能となった小豆ですが、近年相場価格が上昇している傾向にあります。その理由は以下の2つです。
- 徐々に生産量が低下しているため
- コロナ禍で和菓子離れが進んだため
十勝産小豆の相場価格が上昇している理由を詳しく解説します。
徐々に生産量が低下している
小豆の全国生産量はここ数年減少傾向にあります。特に、2016年度は大変な不作の年であった記録が残っています。
小豆の収穫量(全国) | |
2015年度 | 63,700t |
2016年度 | 29,500t |
2017年度 | 53,400t |
2018年度 | 42,100t |
2019年度 | 59,100t |
2020年度 | 51,900t |
2021年度 | 42,200t |
参考:農林水産省|令和3年産小豆、いんげん及びらっかせい(乾燥子実)の収穫量
参考:農林水産省|小豆の需要動向について
小豆の需要は徐々に減少傾向にあり、それに伴い供給も減少しています。洋菓子やスナック菓子などの流行によって和菓子離れが進んでいることも需要が減少している要因のひとつと言えるでしょう。供給量が減ることで、価格は高騰し余計に和菓子離れや輸入品の浸透が進むのではないかという懸念もあります。
コロナ禍で和菓子離れが進んだ
普段和菓子を食べない人でも、帰省の際のお土産やお客様へのおもてなしとして和菓子を購入することがあるのではないでしょうか。
和菓子離れが進みつつも、折々に和菓子を食べる機会があったため、小豆の需要減少は緩やかなものでした。
しかし、コロナ禍となり移動の制限や会食の中止など、和菓子を購入する機会がめっきり減ってしまったことで、和菓子離れが急速に進んでいます。これにより、小豆の需要が低下していることも問題視されています。
まとめ
十勝で美味しい小豆が栽培できるのは、「気候」「土壌」「輪作」の条件が全て満たされているからであることが分かりました。一大生産地である北海道の中で、最も多くの小豆出荷量を誇る十勝地方。十勝の名産品としてさまざまなブランド品種の小豆が日本全国に流通しています。
しかし、近年進んでいる和菓子離れによって小豆の需要や供給が低下していることも忘れてはいけません。日本人に古くから愛され、世界に誇れる文化の一つでもある和菓子。和菓子離れに歯止めをかけるためにも、美味しい小豆で作った餡子や赤飯などを召し上がってみてはいかがですか。