日本最北端の酒造「国稀」が醸す日本酒の“いいところ”
目覚ましい進歩を続ける北海道の日本酒シーン。温暖化が進む本州から北海道に蔵を移す酒造もあるほど、米、水、気候に恵まれた北海道が注目を浴びています。そんな中でも明治15年創業の「国稀酒造」は、北海道の歴史を背負った老舗酒造として国内外から高い評価を得ている酒造。
時代の波を乗り越えて現代の「日常酒」を醸し続ける最北端の酒蔵・国稀酒造の魅力をご紹介します。
国稀酒造って?
日本海に面したオロロンラインを札幌から北上すること3時間ほど。漁業が盛んな北海道増毛町に国稀酒造はあります。明治15年に創業し、現在は4000石の出荷量を誇る最北端の老舗酒造です。
代表銘柄は酒造名にも掲げられている「国稀」
香りを重視する吟醸酒が近年の人気ですが、国稀酒造の主力は普通酒で、約6割を占めるといいます。
飲み飽きしない柔らかな辛口が特徴で、酒の肴も、食事として食べる食材の味も引き立てる味わいを大切にしています。すっきりとした淡麗な飲み口の秘密は暑寒別連峰の雪解け水。アメリカ硬度で18〜20の軟水を仕込み水とし、北国の低温でじっくりと熟成するからこそ生み出される味わいです。
始まりは呉服商
実は、国稀酒造は呉服商から始まったといいます。新潟県佐渡市に生まれた創業者の本間泰蔵は小樽に渡り呉服店の番頭として頭角を表しました。ニシン景気に沸く増毛にも度々訪れ、明治8年に増毛町に移住。呉服商を始めつつも当時の機運に乗った海運業、ニシン漁にも手を広げました。
血気盛んな人出が集まってくる中、求められたのは日中の疲れを癒す「酒」。当時の酒は本州から運ばれてくることが多く、高価な存在でした。その酒を地元で作ることはできないか。そうして始められたのが醸造業だったのです。
高貴な人々のための香り高い吟醸酒ではなく、町の人々が1日の疲れを癒やし、食事をしながら楽しめる酒造りを。その精神は今もこの土地で生き続けています。
国稀酒造株式会社の基本情報
店名 | 国稀酒造株式会社 |
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住所 | 北海道増毛郡増毛町稲葉町1丁目17番地 |
アクセス | JR留萌駅から沿岸バスで「旧増毛駅」へ。「旧増毛駅」から徒歩約5分 |
営業時間 | 9:00〜17:00(売店) |
定休日 | なし ※年末年始は休館 |
電話番号 | 0164-53-9355(売店直通) |
公式サイト | https://www.kunimare.co.jp/ |
備考 | 売店は17時までですが、見学の場合は16:30までの入館がおすすめ |
国稀という名前の由来
酒造の名前ともなっている酒の代表格「国稀」。もともとは「國の誉」という名前でした。
「国稀」が定番商品として登場したのは大正9年のこと。当時の時の英雄、乃木希典元陸軍大将の「希」をいただき、そのままの字を取るのはおこがましいと考え「のぎへん」を加え、「国に稀な良いお酒」という意味合いを持たせて「国稀」に改名されました。
乃木大将が時の人だった、という以外にも酒の名前として字を拝命した理由があるといいます。
明治35年に勃発した日露戦争には増毛町からも若い命が差し出され、多くの被害を被りました。戦後、戦没者の慰霊碑を建てる際に乃木希典元陸軍大将に碑文の揮毫の依頼に当社創業者である本間泰蔵が赴き、乃木大将の人格に感銘を受けたことから改名の物語は始まっています。
国の歴史とともに歩んだ名を持つ銘酒「国稀」は増毛町の土地の誇りでもあるのです。
これが「国稀」! 飲み方、楽しみ方もご一緒に
酒造名通り、「国稀」が代表銘柄ではありますが、国稀シリーズは佳撰、上撰、本醸造、純米、大吟醸など様々。それぞれにぴったりの飲み方や食べ合わせの良い料理が異なってきます。
さらに、「国稀」以外にも復刻焼酎や梅酒、スパークリング日本酒など現代の趣向を取り入れた意欲作も取り揃えられており、季節商品もあるので目が離せません。
国稀酒造代表銘柄の4タイプ分類
日本酒初心者さんや国稀を初めて飲むという方に向けて、国稀酒造協力のもと、飲食店や酒販売店でも用いられている4タイプに分類してみました。
自分の好みやその日の気分に合わせたお酒選びの参考にしてみてください。
豆知識:佳撰、上撰、特撰って?
もともとは酒税を区別するランクとしてあった「特級、一級、二級」の区分けが1992年に廃止されたことにより、蔵元が独自にそれに変わって「特撰、上撰、佳撰」という名称を付けるようになったもの。明確な基準はありませんが、佳撰に近づくほどお求めやすい価格帯になっていきます。
ですが、佳撰だから特撰に味が劣る、というわけではありません。
人の好みによって佳撰の方が飲みやすい、料理や酒の飲む温度によっては上撰がいい、ということもあるのです。おすすめの飲み方、合わせたらよりおいしくなる食べ合わせなどを知れば、深い深い日本酒の世界に一歩踏み出せますよ。
豆知識:特定名称酒とは?
日本酒は同じ銘柄でも、いくつか種類があります。この違いは、大きく分けると“純米酒かどうか” “原料となるお米をどのくらい削っているか”の2つです。
原料は米・麹・水ですが、香りの華やかさや味わいの調節を目的に「醸造アルコール」を少し加えているものがあります。また、精米歩合によっても味わいが変わります。一般的に米の中心により近い部分を使うことで、雑味の少ないスッキリとした味わいになると言われています。
日本酒は「特定名称酒」と「普通酒」に分けられるのですが、この“純米酒かどうか” “原料となるお米をどのくらい削っているか”という基準に則った日本酒が「特定名称酒」に分類されます。
国稀 佳撰
国稀酒造のスタンダード。柔らかな旨味とすっきりとした喉越しが特長で、サイズも180ml~1800mlと幅広く、日常酒として愛されています。
飲み方
どんな飲み方でもいけますが、冷や(10℃~常温20~25℃)、ぬる燗(40℃前後)がおすすめ。
合う料理
味噌味・クリーム味などこってりとした(濃厚な)味と合わせるのが吉。
例:さばの味噌煮、味噌おでん、焼き鳥(タレ)、鰻の蒲焼、ビーフシチュー
国稀 上撰
従来の1級酒タイプで、アルコール度数が15.5度。淡麗辛口であと味のスッキリした味わいです。こちらも180ml~1800mlと幅広いラインアップ。
飲み方
冷や(10℃~常温20~25℃)、ぬる燗(40℃前後)がおすすめ。
合う料理
塩味・マリネなどあっさりとした(後味を引かない)味。
例:マリネ、カルパッチョ、イカの刺身、鰯のポン酢煮、漬物
国稀 大吟醸
山田錦と、北海道暑寒別連峰から流れる雪解けの伏流水で醸された、香り華やかな高品質酒。
飲み方
大吟醸らしく、冷酒(10℃以下)、冷や(10℃~常温20~25℃)がおすすめ。
合う料理
塩味・マリネなどあっさりとした(後味を引かない)味。
例:マリネ、カルパッチョ、イカの刺身、鰯のポン酢煮、漬物
北海鬼ころし
これも国稀酒造では外せない1本。キリッとした口当たりで、香り高く、いわゆる超辛口。鬼もころりと酔っ払ってしまうかも?
飲み方
冷酒(10℃以下)、冷や(10℃~常温20~25℃)がおすすめ。熱燗にはあまり向きません。
合う料理
醤油味・タルタル・チーズなどコクのある(しっかりとした)味がおすすめ。
例:(唐揚げ、焼き肉、すき焼き、酢豚、チーズ)
純米 吟風国稀
北海道産の酒造好適米「吟風」で醸されたお酒。純米酒ならではのコクがありながら、キレの良い辛口酒として楽しめます。
飲み方
冷や(10℃~常温20~25℃)が最もおすすめ。冷酒、熱燗も◎。
合う料理
味噌味・クリーム味などこってりとした(濃厚な)味と合わせるのが吉。
例:さばの味噌煮、味噌おでん、焼き鳥(タレ)、鰻の蒲焼、ビーフシチュー)
北海にごり酒
にごり酒ならではの奥深い旨味がありながら、すっきりとした後味が特長。超辛口のにごり酒。
飲み方
冷酒(10℃以下)がおすすめ。燗には向かないので冷や(10℃~常温20~25℃)でとどめて。
合う料理
醤油味・タルタル・チーズなどコクのある(しっかりとした)味がおすすめ。
例:(唐揚げ、焼き肉、すき焼き、酢豚、チーズ)
<限定酒>暑寒しずく
磨きあげた北海道産の酒造好適米「吟風」を100%使用し、暑寒山麓から湧き出る清らかな天然水で醸し出した逸品。酸味を抑えながら米の旨さをそのまま生かした味わい。飲みやすい、やや辛口の純米酒です。
北酔
19.5度とアルコール度数が高く味の濃いお酒。やや甘口で、割らずにそのまま飲めば旨味の余韻を、オンザロックにすればやさしい香りとさらりとしたのどごしを楽しめます。気分や料理に合わせてさまざまな飲み方ができますよ。
本格焼酎 初代泰蔵720㎖
創業者 本間泰蔵から名をとった焼酎。かつて造っていた焼酎は、当時「日の出」という名で親しまれ、地元増毛はもとより宗谷・樺太地方にまで流通し、ニシン場のヤン衆にまで支持されていました。ニシン漁の衰えとともに製造されなくなりましたが、半世紀の時を超えて復活。現代の嗜好に合わせた味わいで楽しめます。
鬼ころしの梅酒
梅の実(国産)、糖類、酒類(北海鬼ころし原酒)のみを原料とした本格梅酒。香料、着色料等の添加物を一切使わず、梅の実は南高梅を使用。より香り高く仕上げられた1本です。
スパークリング 【純米吟醸】 TWILIGHTSTAR
自然発酵による泡を封じ込めた、優しい発泡性の日本酒。まるでスパークリングワインのような刺激を日本酒で楽しめます。爽やかな酸味とほのかな甘みが特徴で、甘みと酸味が調和する爽やかな飲み心地は乾杯用にもぴったり。日本酒が苦手という方にも入門用としておすすめ。
国稀ならではのコラボ商品
なかなか増毛町の現地まで行けない、という人も、お取り寄せなら国稀を楽しめますよ。コラボ商品や国稀のお酒を使った商品などオンラインで買えるおすすめをご紹介します。
スイーツ × 国稀
日本酒とスイーツのマリアージュを楽しむなら、北海道北斗市にある末廣軒(パティスリー ジョリ・クレール)のパウンドケーキ「国稀吟醸酒粕ケーキ」がおすすめ。
国稀酒造の酒粕を生地にたっぷりと練り込み、生地の表面にも国稀の吟醸酒が塗り重ねて仕上げられています。そのため、焼き上げた後も熟成が進み開封直後と少し時間が経った後では、その濃厚さ味わいに違いが出るのも楽しみどころ。まるでクリスマスに食べるケーキ「シュトーレン」のよう。
アルコール分2%と比較的高めなので、お酒好きな方へのプレゼントにも喜ばれますよ。
おつまみ × 国稀
くんせいかずのことチーズを組み合わせた、新感覚おつまみ「カズチー」。一時期手に入りにくいこともあったほどの人気商品と国稀3種がコラボしてオンラインで購入することができます。純米 吟風国稀、国稀 純米吟醸、国稀 大吟醸から選べるセット。
かずのこは、ニシンの魚卵およびニシンの卵巣をそのまま塩漬けまたは乾燥させたもの。国稀を語る上では外せないニシン漁について思いを馳せながら一献いかがでしょう。
ハンドクリーム × 国稀
国稀酒造のオンラインショップで販売されているオリジナル商品「酒屋のハンドクリーム(チューブタイプ) 50g」。国稀酒造の特別純米酒を使用した、べとつかないサラサラ感が人気のハンドクリームです。もともと蔵元売店での限定販売商品でしたが、オンラインでも購入できるように。
杜氏の手が白くてきれい、というのは有名な話。寒さの厳しい最北の酒造のハンドクリームで、手荒れケアしてみませんか。
現地で楽しむ国稀酒造
北海道・増毛町の国稀酒造は酒造りをしながら、店頭販売や国稀酒造にまつわる歴史的展示も行っています。(本州の酒蔵では酒造りのみで販売はしていない酒造も多くあります。)
歴史的な背景を知った後での酒の味わいはまた違ったものになるでしょう。増毛町ならではの体験をお楽しみあれ。
利き酒コーナー
なんといっても現地ならではの楽しみどころは、大吟醸を含む全16種類のお酒を無料で試飲できる利き酒コーナー。数量限定の地元限定酒や新酒の時期は新酒をどこよりも早く飲むことができます。
1月から春先までは暖かい甘酒のサービスも。北海道の甘酒は酒粕をお湯で溶かして砂糖を加えたもの。麹を発酵させる甘酒ではないため酸味はなく、体の芯から温めてくれるおいしさがありますよ。車で移動する方は、必ずハンドルキーパーを決めてからご試飲ください。
資料室・売店・水場
国稀酒造の暖簾をくぐると、その先には地元限定酒などが並ぶ売店が。カウンターは酒搾りに使用していた槽(ふね)材でこしらえられており、古き良き時代を感じながらのお買い物を楽しめます。京都・奈良の老舗から仕入れた和風小物売店もあり、お土産品として人気です。
資料室は長年製品庫としていた石蔵を生かし、酒造りに使用していた道具や酒器、古いラベルなどを展示しています。一升瓶に貼られた古いラベルが並ぶ姿は壮観です。
また、仕込み水である暑寒別岳連峰の湧水を組むことができる水場が建物の中と外の2カ所にあり、持ち帰りも可能。アメリカ硬度18〜20というまれに見る柔らかさの水を、ぜひ堪能してみてください。
千石蔵・米蔵ギャラリー
かつて増毛港にあり漁具の保管に使われていた千石蔵。現在は国稀酒造から徒歩3分の場所に移築されています。推定築100年以上の建物の中にはニシン漁繁栄の歴史をたどる船、漁具、写真が展示されており、ニシン漁で一財を築いた歴史を感じることができます。もちろんこちらの見学も無料です。
米蔵ギャラリーは平成17年に新設された石倉で、歴史的建造物が立ち並ぶ街並みに溶け込むような造り。酒の仕込み時期には米を貯蔵する蔵として使用していますが、それ以外はポスター展や、國稀写真コンテストなど、さまざまな展示・用途で活用しています。
まとめ
酒に土地の歴史あり。酒造の歴史や、味の由来を紐解けば土地の豊かさ、時代の流れ、人々の趣向や思惑など、様々なものが見えてきます。ワイングラスで飲みたくなる、一杯目におすすめなど日本酒の楽しみ方は数多くありますが、蔵元を訪ね、地元の海の幸、山の幸と合わせながら歴史に触れればより日本酒を好きになるかも知れませんよ。
国稀酒造は歴史を学びつつ、試飲も楽しみながら無料で日本酒の世界に入っていけるので、日本酒ビギナーには特におすすめの酒造です!