蕎麦通の楽しみ方「そば湯」とは?飲み方や自宅での作り方・栄養・効果も解説
蕎麦通のシメの楽しみであるそば湯をご存知でしょうか?どんなものかは知っているけど、飲んだことはないという人もいるかもしれません。そば湯は粋な江戸っ子達が愛した通な楽しみ方ですが、現代ではさまざまな栄養や効能があることが分かっています。
この記事では、そば湯の飲み方や自宅での作り方、歴史、栄養、効能などを紹介しています。これから蕎麦を食べる人やそば湯に興味がある人は、ぜひ最後までご覧ください。
そば湯とは
そば湯とは、蕎麦の茹で汁のことを言います。古くから営業している蕎麦屋では、蕎麦を食べた後のシメにそば湯を提供する店も多く、「蕎麦通ならそば湯まで楽しむのが粋な食べ方」と愛されてきました。
基本的には、盛り蕎麦やざる蕎麦に添えられるものですが、温かい蕎麦を注文してもお店の人に頼んでみると提供してもらえることがあります。メニューなどには記載していないことが多いため、余計に「蕎麦通が楽しむもの」というイメージがあって好まれているのかもしれません。
また、現代ではファーストフード店などで蕎麦を食べることもあり、そういったお店では提供されていないことから「そば湯という名前は知っているものの、飲んだことはない」という人も多いです。地域によってもそば湯の知名度は異なり、関西などでは特に「そば湯って何?」「そば湯を飲んだことがない」といった声が多く聞かれます。
そば湯の飲み方
そば湯の飲み方はシンプルです。まずは、提供されたそば湯をそのまま味わってみてください。蕎麦の風味や味わいが口いっぱいに広がるのを感じましょう。
その後は、つゆや薬味など入れてお好みの味で飲んでもOKです。蕎麦通のなかには、そば湯の際に使うつゆや薬味のことも考えながら蕎麦を食べる人も少なくありません。そば湯をいただくつもりなら、提供された薬味を全て使い切らずに少しだけ残しておくとよいでしょう。
今回紹介した飲み方が絶対的なマナーという訳ではありませんが、そば湯は蕎麦の味や茹で方などによっても味わいが変わります。お店のカラーが出やすいため、まずはそのままいただいてみることで「このお店のそば湯はこんな味なんだな」と楽しむことができます。
こんな飲み方も?そば湯のアレンジ方法
そば湯はシンプルにそのままの味を楽しむのも良いですが、好みに合わせてさまざまな飲み方ができる点も魅力のひとつです。以下のようなアレンジそば湯も、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
めんつゆ
そば湯は基本的に、盛り蕎麦やざる蕎麦に添えられることが多いです。そのため、最後に残っためんつゆをそば湯に加えて味わうのも王道の飲み方として人気があります。
めんつゆを入れる時には、先にそば湯を1/3ほどそのまま飲んでから麺つゆを注ぐのが通の飲み方。つゆを入れることで、初めてそば湯を飲む人でも飲みやすくなります。
わさび
最後に口の中をさっぱりさせたい人は、そば湯にわさびを入れるのがおすすめです。少量のわさびを入れてよく混ぜて味わうと、そばの風味とわさびの辛みで口の中がさっぱりしますよ。
焼酎
これぞ通のなかの通の楽しみ方です。焼酎をそば湯で割って飲むと、ただのお湯割りよりも濃厚な味わいと蕎麦の風味が味わえます。焼酎は種類によって蕎麦を原料としているものもあるため、相性は抜群です。蕎麦焼酎はもちろん、スッキリした味わいの米焼酎ともよく合います。
【自宅でも楽しめる】そば湯の作り方
そば湯は自宅で作ることもできますが、どのような蕎麦の茹で汁でも良いという訳ではありません。お店でいただくそば湯は十割蕎麦(小麦粉を含まずそば粉のみで作られている蕎麦のこと)の茹で汁を提供していることが多いです。
蕎麦粉のなかでも特に強い香りを持つ1番粉や2番粉を使っている蕎麦の茹で汁なら、香り高いそば湯が楽しめるでしょう。一般的なスーパーなどで売られている二八蕎麦や五割蕎麦では香り高いそば湯ができないため注意してください。
そば湯だけを味わってみたいという人は、蕎麦粉を使ってそば湯を作ってみるのもおすすめです。今回は、手軽に楽しみたい人向けの蕎麦粉から作るそば湯の作り方を紹介します。
材料
そば湯の材料は以下の3つです。
- お湯
- 水
- 蕎麦粉
蕎麦粉には、1番粉、2番粉、3番粉、末粉、ひきぐるみという種類があり、そば湯には栄養が高く強い香りを持つ1番粉もしくは2番粉が適しています。
また、お湯は必ず90度以上の熱湯を用意するようにしましょう。蕎麦に含まれる難消化性デンプン(レジスタントスターチ)は、90度以下では溶けにくい性質があります。しっかりと溶かさなければ、消化不良を起こす可能性があるため、そば湯を作る際には必ず沸騰直後のお湯を使ってください。
作り方
そば湯の作り方は以下のとおりです。
- 湯呑(または蕎麦猪口)に蕎麦粉を入れる(さらっとしたそば湯にするならティースプーン1杯、とろっとしたそば湯にするならティースプーン3杯を目安にする)
- 蕎麦粉と同じ量の水を入れてクリーム状になるまでよくかき混ぜる
- クリーム状になった蕎麦粉に少しずつお湯を加えていく
- よくかき混ぜて完成
蕎麦粉に直接お湯を注いでしまうと、粉が固まってしまいダマになります。必ず、先に常温の水で溶いてから、熱湯を注いでください。
そば湯の歴史
蕎麦は古くから蕎麦粥や蕎麦がき(蕎麦粉を練って茹でたもの)・蕎麦焼き(蕎麦粉を練って焼いたもの)として日本全国で食べられていました。現在のように麺状になったのは江戸時代頃と言われています。
続いては、そば湯の歴史についてみていきましょう。
そば湯は信州の民間療法がルーツという説もある
江戸や信州を中心に、蕎麦は大ブームを巻き起こし一躍人気の食べ物となりました。その際、「蕎麦の茹で汁を飲むと体が温まり胃腸の調子がよくなる」とそば湯が飲まれるようになったのがきっかけで、そば湯文化は一気に広がります。
元々、蕎麦切り(現在の麺状のそば)の発祥地と言われる信州・長野では、胃腸の調子が悪い時にそば湯を飲む風習があり、これが江戸に伝わったのではないかという説があります。
江戸時代に、蕎麦の栄養やそば湯の効能について分かっていた訳ではないため、「何となく体の調子がよくなる」と信州でそば湯が飲まれていると知れ渡るやいなや、江戸でも人気が出て広く親しまれるようになりました。
そば湯文化は関西には浸透しなかった
一方で、関西や四国などではうどんが好まれていたため、江戸からやってきた蕎麦ブームはそこまで盛り上がらなかったと言われています。
江戸では、多くの人が蕎麦を愛しより美味しく味わいたくてそば湯を飲んでいましたが、蕎麦好きがそれほど多くない関西では、そば湯文化は浸透しなかったようです。そのため、現在も関西ではあまりそば湯が知られておらず、そば湯を全く知らない人や一度も飲んだことがないという人も少なくありません。
2016年に話題になった個人ブログでは、関東出身のそば湯を飲む彼氏に心底驚いている関西出身の彼女の驚きがさまざまな議論を巻き起こしました。筆者である関西出身の女性は、これまでそば湯という飲み物を知らず、身近にもそば湯を飲んでいる人はいなかったため、「彼氏が蕎麦の茹で汁を飲むなんて!」と、とても驚いたそうです。
そば湯に栄養が含まれる理由
蕎麦は元々、食物繊維やビタミン、タンパク質などが豊富な穀物です。そのため、古くから貴重な栄養源として食べられてきました。
しかし、蕎麦の栄養は水溶性のものが多く、茹でる際に多くの栄養が溶け出てしまいます。そのため、蕎麦のゆで汁であるそば湯は栄養豊富と考えられているのです。そば湯は、そばの持つ栄養を余すことなくいただくための先人の工夫とも言えるでしょう。
そば湯に含まれる栄養
蕎麦から溶け出た栄養がたっぷり含まれたそば湯。続いては、そば湯にはどのような栄養が含まれているのか紹介していきます。
ビタミンB1・B2
蕎麦には代謝に欠かせないビタミンB1やビタミンB2が豊富に含まれています。
ビタミンB1は糖質を代謝する際に必要な栄養のため、不足してしまうと代謝がスムーズに行われなくなってしまいます。ビタミンB1不足による代謝不良で起こる有名な病気に脚気(かっけ)があり、昔は船上で新鮮な野菜や果物を食べられない船乗りの病として知られていました。
一方、ビタミンB2はビタミンB1と共に代謝に深く関わっており、皮膚や爪、髪などの成長に必要な栄養です。ビタミンB2が不足すると皮膚や粘膜のトラブルが起きやすくなる傾向にあり、口内炎や皮膚炎などの原因となることもあります。
どちらも水溶性ビタミンであるため、蕎麦を茹でている最中に茹で汁の中に溶け出てしまいます。
ナイアシン
ビタミンB3と呼ばれることもあるナイアシンも水溶性の栄養素のため、そば湯に多く含まれています。ナイアシンは代謝によってエネルギーを作り出す際に使われる他、有害成分であるアセトアルデヒドの分解に欠かせない栄養です。
アセトアルデヒドは、アルコール類を摂取することで体内に増加してしまうため、お酒をたくさん飲む人はその分アセトアルデヒド分解のために多くのナイアシンを必要とします。
カリウム
ミネラルの一種であるカリウムも水に溶けやすいため、蕎麦を茹でる際に多く溶けだしてしまいます。
カリウムは血圧を下げる働きがあり、体内のナトリウムを体外へと排出する働きもあります。味付けの濃い蕎麦を食べた後にはカリウムたっぷりのそば湯を飲むのがよいでしょう。
そば湯にルチン(ポリフェノール)は含まれる?含まれない?
蕎麦に含まれるポリフェノールの一種・ルチンには、抗酸化作用があるためアンチエイジングや動脈硬化など生活習慣病の予防効果などが期待されています。そして、ルチンは別名ビタミンPと呼ばれており、ビタミンPは水溶性。ということは、そば湯に溶けだしてしまうと考えられてきました。しかし、ここには大きな落とし穴があったのです。
ルチンには天然ルチンと人口ルチンがあり、天然ルチンは非水溶性なのに対して人口ルチンは水溶性。もちろん、そばに含まれるのは天然ルチンです。人口ルチンが水溶性であることから、そばに含まれるルチン茹で汁に溶けだしてしまうと考えられたのでしょう。
実際は、蕎麦に含まれるのは天然ルチンのため、人口ルチンのように水に溶け出てしまうことはありません。ただし、非水溶性であるとはいえ天然ルチンがほんの少しも溶け出ないという訳ではないため、ほんの僅かなルチンであればそば湯にも含まれるでしょう。しかし、そば湯に溶け出るルチンの量は抗酸化作用や動脈硬化予防などの効果があると言える程ではありません。ルチンをしっかり摂取したいなら、蕎麦をそのまま食べる方が良さそうです。
そば湯に期待できる効能
栄養豊富なそば湯にはさまざまな効能が期待できます。
代謝の促進
エネルギー代謝に欠かせないビタミンB1やB2を多く含むそば湯は、代謝を高めたい人にぴったりです。そもそも、そばは低カロリー高たんぱくなのでダイエットにも適しており、そば湯を飲むことで更に代謝を高め、脂肪の燃焼効果も期待できます。
ただし、蕎麦には糖質が含まれるため、糖質制限ダイエットなどには不向きなのでご注意ください。
健康で丈夫な体作り
ビタミンB2は皮膚や爪・髪などをはじめとする体の成長に欠かせない栄養素です。体内に蓄積せず、余剰分は尿として排出されてしまうため、定期的に摂取しておきたい栄養と言えるでしょう。
特に、成長期の子どもには欠かせない栄養素のひとつです。アレルギーの心配がないなら、子どももそば湯を飲むのがよいでしょう。
二日酔いの軽減
二日酔いの原因は、アルコールを摂取することで体内にアセトアルデヒドが発生してしまうことにあります。アセトアルデヒドは吐き気や頭痛などを引き起こすため、お酒を飲みすぎると二日酔いの症状がでてしまうのです。
そば湯に多く含まれるナイアシンは、アセトアルデヒドの分解作用があります。そのため、お酒を飲んだ後にそば湯を飲むと、二日酔いの軽減効果が期待できるでしょう。お酒のシメには蕎麦を選び、最後にそば湯を飲めば翌日には響きにくいかもしれません。
高血圧の予防
そば湯に含まれるカリウムには、ナトリウムの排出作用があります。そのため、ナトリウムの摂取で上がってしまった血圧を、カリウムが含まれたそば湯を飲むことで抑える効果が期待できます。
そば湯は塩分が高いのでは?という声もありますが、そば湯に含まれる塩分はそれほど多くありません。ただし、麺つゆなどを加えてしまうと塩分濃度が上がってしまうため、高血圧の予防をしたい人は、何もいれずにシンプルなそば湯を味わうのがおすすめです。
栄養豊富な通の味・そば湯を味わってみよう
そば湯について作り方や飲み方、歴史、栄養などを紹介してきました。蕎麦をより深く味わえるとして人気となったそば湯ですが、意外にも関西では浸透していないことが分かりましたね。また、そば湯には蕎麦から流れ出たさまざまな栄養が含まれているため、代謝の促進や二日酔い軽減などにも効果が期待されます。江戸時代の人々は、そんな栄養があるとも知らずに効果を感じていたのかもしれません。
ぜひ、美味しい蕎麦を食べた後は、栄養豊富なそば湯まで味わってみてください。