隠れた銘品種「ゆきさやか」とは? 新しい北海道米の特徴と味わいを紹介

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新潟に次いで、米の生産量全国第2位を誇る北海道。1980年代に寒冷地栽培に適した「きらら397」の誕生を経て、近年は「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」といった銘柄が“北海道米”として全国区で知られるようになりましたが、ここへ来てさらに注目を集め始めたお米があります。その銘柄は「ゆきさやか」。そして「ゆきさやか」は、幻のお米とも言われています。

本記事では、新たな北海道米「ゆきさやか」の特徴や誕生までのストーリー、幻のお米と呼ばれる理由、おいしい炊き方までを詳しく紹介します。

取材協力:「市川農場」代表・市川範之さん

この記事のポイント

  • ゆきさやかは2016年収穫分から流通している北海道産米のルーキー
  • 食味官能試験において、ゆめぴりかと互角以上の結果が出ている
  • 品種名は雪のように真っ白な見た目から名づけられた
  • 食味に優れていながら、まだ全体の生産量が少ないため「幻のお米」と言われている
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北海道米「ゆきさやか」ってどんなお米?

旭川「市川農場」さんのゆきさやか新米

「ゆきさやか」は系統名「北海302号」のことで、現在流通している北海道米の銘柄のひとつです。北海道旭川市にある「市川農場」代表・市川範之さんが農林水産省に銘柄認定を申請し、2016年に産地品種種銘柄に認定されたことで、北海道の生産者が「ゆきさやか」として栽培出来るようになりました。

2009年から一部農家で栽培されていましたが、銘柄認定以前は各生産者ごとに独自の商品名をつけて販売するしかなく、この認定によって正式に「ゆきさやか」として流通されるようになり現在に至ります。

「ゆきさやか」はどうやって誕生した?

ゆきさやかの栽培イメージ

のちに「ゆきさやか」となる「北海302号」は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の研究室、北海道農業研究センター(以下、「北農研」)が1998年に交配を行ったのが始まりです。

北農研の稲育種グループは、北海道向けのさまざまな特徴あるお米の品種を日々開発しており、おいしい北海道産米として広く知られるようになった“おぼろづき”(2003年品種登録)などを育成してきた研修室です。

<時系列>

  • 1998年:北農研が交配をスタート
  • 2005年:新品種候補として「北海302号」と番号を付け、北海道庁が試験栽培を開始
  • 2010年:北農研が「北海302号」を品種として出願
  • 2012年:「北海302号」が正式に品種として登録される
  • 2015年:「市川農場」が農林水産省に産地品種銘柄を申請、12月の認定をうけ「ゆきさやか」に

「ゆきさやか」誕生までのストーリー

ゆきさやかのルーツは「コシヒカリ」と「きらら397」

ゆきさやかの系譜図

寒冷地での栽培に強い「きらら397」や「はやゆき」を祖先に持つ「北海PL9」と、食味に優れた「コシヒカリ」「あきたこまち」「ほしのゆめ」が祖先の「空育160号」の交配によって生まれたのが「北海302号」です。のちの「ゆきさやか」です。

なぜ、「ゆきさやか」が今注目を集め始めているのか?

味や食感、見た目の良さはもちろんですが、近年さらに知名度が高まった要因のひとつに、コンテストでの受賞が考えられます。

2019年に、蘭越町で毎年開催されている“おいしいお米の日本一”を決める「米-1グランプリ」の第9回大会で、「ゆきさやか」が金賞を受賞(むかわ町小坂農園)。また、京都の老舗お米屋さん「八代目儀兵衛」が毎年発表している「お米番付」の2022年第9回大会でも「ゆきさやか」が最優秀賞を獲得(剣淵町武山農園)しています。これを機に「一度食べてみたい!」という人が急増しました。

「ゆきさやか」の味は?おいしい?特徴など

ゆきさやかの食味官能試験の平均値

「ゆきさやか」の見た目の特徴は、その美しい“白い色”と“つや”。そして日本人に好まれる“もっちり”と粘りのある食感、“おいしさ”(食味のよさ)のいずれもをバランス良く兼ね備えている点が特徴です。ここでは、その一つひとつを詳しくご紹介します。

おいしさの秘密は、タンパク質含有率の低さにあり!

*1 「ほしのゆめ」を100とした比率
引用(抜粋):品種紹介パンフ農研機構ウェブサイト
品種 精玄米重(/a) 精玄米重比*1 アミロース含有率 タンパク質含有率
ゆきさやか 55.1g 108% 16.4% 6.0%
ほしのゆめ 51.2g 100% 19.3% 6.7%
ななつぼし 53.4g 104% 18.2% 6.7%
ゆめぴりか 53.9g 105% 15.0% 6.7%

上記は、北農研が品種紹介パンフレットにて公開している収量・品質の比較データです。お米において、食味の良さ(おいしさ)を示す際にいくつかの基準があり、そのうち重要な要素としてあげられるのが、タンパク質の含有量と言われています。

一般的にお米に含まれるタンパク質量が低いほど、いわゆる“おいしいお米”とされています。「ゆきさやか」のタンパク質含有率は、これまでの北海道産米品種のなかで、ダントツの低さを誇る6.0%。つまりとてもおいしいお米としてランクされているわけです。

アミロース含有率が低く、もちもち食感の粘りがある

アミロースとアミロペクチンの関係

お米の食味の良さ(おいしさ)には、食感も大切です。“粘り”は、お米の種類「うるち米系」と「もち米」を掛け合わせたときに特徴づけられる“アミロース含有率”で表されます。

数値が低いほど、もち米のもっちり感が顕著で、最近はアミロース含有率が低い“もちもちなお米”が人気。一方、あまりに粘りが強すぎると、うるち米の風味が感じられず、飽きやすい味になるともいわれています。

ところが前述の数値を見ると、「ゆきさやか」はアミロース含有率が16.4%と、その他の銘柄の中間に位置し、食感(粘り具合)のバランスがとれた数値となっています。

北海道米のアミロース含有率チャート

寒暖差が大きいほど食味の良いお米が育ち、寒暖差がなく低温の日が長く続くと食味の悪いお米になると一般的に言われていますが、それは粘りを示すアミロース含有率の変動が関係しています。

「おぼろづき」や「ゆめぴりか」はアミロース含有率が低く、もっちりとした食感が魅力ですが、上記のデータからも分かるとおり、気温の環境を受けやすく安定しないという点があります。一方で「ゆきさやか」は寒冷地栽培に重点をおいて開発された品種のため、耐寒性があり、低温でもアミロース含有率への影響が少ないという特徴があります。産地品種銘柄を申請し試験栽培を行ってきた「市川農場」の市川さんによると、「ゆきさやか」のアミロース含有率は産地による数値の変化も少ないと言います。

白い見た目はまるで粉雪のよう

真っ白なゆきさやか

名前の由来ともなった見た目は、やはり一番の特徴。炊き上がりのお米の白さが“雪のように白く艶やか”であることから「ゆきさやか」と命名されました。

なお、炊き上げる前の精米時点での白さにおいても、ほかの品種よりも白度が高い数値が出ているようです。

参考:農林水産技術会議資料(PDF)|農林水産省

「ゆきさやか」が“幻のお米”と言われる理由

「ゆきさやか」のおにぎり

ここにきて、北海道では農産物の直売所などでときどき「ゆきさやか」を目にする機会が増えてきましたが、スーパーなどでいつでも目にすることができるお米ではありません。その理由は、まだ生産する農家の戸数や作付面積が少なく、全体的な生産量が少ないからです。

北海道全体のお米の作付面積でみると、「ゆきさやか」は1%にも満たない作付面積で、2022年産の出荷量は563トンと道産米全体の出荷量のわずか0.1%ほど。文字通り希少米といえるのです。そしてその希少性と抜群の食味を誇るお米のため、「ゆきさやか」は「幻のお米」と言われています。

“幻のお米”が“幻のゆきさやか”になるまで【誕生ストーリー】

北農研の水稲育種グループが「北海302号」を開発し、2010年に品種登録を出願。登録が完了したのは、2012年7月のこと(登録番号21855)。ところが、すぐに「ゆきさやか」ブランドとして生産・販売が行われたわけではありません。そこには、とある農場の並々ならぬ努力がありました。

銘柄を名乗るには農林水産省の認定が必要

「北海302号」としてイネの品種登録をしただけでは、ブランドや銘柄として全国に流通させることはできません。米穀検査に合格し「産地品種銘柄」として、農林水産省の指定を受ける必要があります。

合格して初めて、産地・品臭・生産年の証明が取得でき、それらの情報を表示して販売できるようになりますが、北農研が品種登録をしたのち、しばらくは「ゆきさやか」の産地品種銘柄認可のための申請を実際におこなう組織があらわれませんでした。このため、おいしいお米ができたにもかかわらず、品種登録後すぐには「ゆきさやか」として市場で販売されることはありませんでした。

旭川の「市川農場」が一念発起で個人として申請

旭川にある市川農場さん

旭川市の西神楽地区で三代に渡って米作りを営んできた「市川農場」。その同農場に北農研から育成試験(試験栽培)の依頼があり、早くから「ゆきさやか」育成のための研究にひと役買っていた農場です。お米はそもそも一年に一度の収穫。土壌を整え、イネを植え、育て、刈り取って精米する。そしてまた次の年へ。

3年以上の試験栽培を経て、お米を良く知る市川さんだからこそ、その優れた美味しさに早くから気づいていたと言います。「もしかすると北海道米の完成形になるかもしれない」という期待を抱いていたものの、なかなか「産地品種銘柄」を申請する組織が現れずやきもき。

旭川「市川農場」さんの入口にあったトラクター

「おいしいお米を一般消費者や農家に広く知ってもらいたい」という一念で、2015年12月に個人の立場で農林水産省の会議に出席し、栽培データや経験を交えて「ゆきさやか」が優れたお米である事を伝え申請を実行。農業団体や組合での申請が主流であったなか、北農研の研究データに加え、同農場が1995年からお米の直販で全国に販売を行ってきた実績も背景に翌年ようやく産地品種銘柄に認定されました。次の収穫を迎えた2016年秋、満を持して「ゆきさやか」ブランドとして販売されるようになったというわけです。

美しく、丈夫に育つ、安定の「ゆきさやか」

真っ白なゆきさやか

品種登録をして以来、おいしさの実力を備えた「ゆきさやか」は、ゆっくりと時間をかけて世に出ていきましたが、お米になる前、栽培するときの視点で見た「ゆきさやか」は、どのような品種なのでしょう。実はおいしいだけではなく、農家の目線でも「ゆきさやか」は少し特別な意味があるお米のようです。

「ゆきさやか」は、稈(かん)長・穂長が長く、稲に実った穂の姿“背姿”が最も美しい品種ともいわれています。そして稲穂の美しさだけではなく、以下の点でも栽培するうえでの強みがあると言います。

  • 収量が安定している
  • 悪天候の年で多品種の収量が少ない場合でもこれまで大きな問題がなくとれている
  • 2023年の高温多湿な夏でもタンパク質含有率が例年並み

「特に道北の上川エリアにおいては、これまで栽培してきたなかでは特筆するような病気にかかることもなく、安定した生育状況が続いている」と市川農場。また、「ゆきさやか」は農家にとって収穫コントロールがしやすい品種でもあるそうです。

お米の早生と中世と晩生の解説図

「ゆきさやか」は数あるお米の中でも、収穫タイミングが遅い“晩生”と呼ばれる品種だそう。農家や農場の中には、田んぼごとに複数種類の品種を栽培しているところもあるため、秋の収穫時期に一斉に刈り取らずとも、順番に行うことで作業者の負担軽減に繋がるという利点もあるようです。

いまのところはルーキーの「ゆきさやか」ですが、生産者の目線から見ても多くのポテンシャルを秘めているお米なのです。

「ゆきさやか」はどこで買える?

作付面積が少ない「ゆきさやか」は、2023年現在、新たな挑戦をしようと志す農家によって、田んぼの一角を使用して作られています。このため小売店へ行けばいつでも購入できるほど多く生産・販売されているお米ではないので、北海道内の道の駅などの農産物直売所または一部の米穀店で購入することができます。

【令和5年産】北海道特別栽培米ゆきさやか 10kg
市川農場
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【令和5年産】北海道特別栽培米ゆきさやか 10kg
4,298(税込)

育成試験から携わり、産地銘柄品種の申請までを行った北海道旭川「市川農場」の正規品種ともいうべき「ゆきさやか」です。大雪山の麓、丁寧な土づくりとミネラル豊かな水で育て「ゆきさやか」のおいしさを最大限にまで高めました。元祖とも称されるオリジナルの「ゆきさやか」をご賞味あれ。

「ゆきさやか」の美味しい炊き方

白米の炊き方は、他の銘柄と大きな違いはありません。ただし、炊飯器のジャーに記されている目盛りは数あるお米の種類の平均で算出されています。北海道産米はもっちりと粘りのある銘柄が多いので、ジャーの目盛りよりもほんの少し水加減を減らすとよりおいしい食感で楽しめます。

ゆきさやか米のおいしい炊き方
  1. 計る・・・計量カップで擦り切る
  2. 洗う・・・混ぜるように軽く2〜3回洗う
  3. 素早く水を切る・・・正確な水加減にするため水分を切る
  4. 水を入れる・・・お米を測った計量カップと同等の水の量を入れる
  5. 浸水・・・30分ほど浸水させる
  6. 炊き上がったら直ぐにほぐす・・・切るように優しくほぐす

市川農場さんに聞いた!ワンポイントアドバイス

ゆきさやかは、一般的なうるち米よりも粘り気が強く、柔らかい低アミロース米です。新米の時期は水分を含んでいるので、水加減を1割程度減らすと美味しく炊き上がるそうです。

まとめ

北海道米の「ゆきさやか」は、炊きあがりの白さに優れ、清らかで程よい粘りが特徴的なお米です。極良食味米として「ゆめぴりか」や「ななつぼし」に匹敵する食味の良さと言われているので、気になる方はぜひ試してみてはいかがでしょう。

PREZO編集部
PREZO編集部
美味しいものに目がない。食べ歩きやお取り寄せ大好きなPREZOのスタッフが、地域の魅力や商品にまつわるストーリー、北海道の豆知識など、とっておきの情報を発信!