アイガモとお米を同時に育てる「合鴨農法」を知ろう

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米づくりには様々な方法がありますが、「合鴨農法」という一風変わった栽培方法があるのをご存知でしょうか? かわいらしい合鴨のヒナを田んぼに放し、害虫や雑草を駆除してもらうことで、減農薬・無農薬のおいしいお米ができることから、近年この手法を取り入れる農家も増えてきているのだそう。

日本人が毎日食べるお米。合鴨農法には、どんな効果やメリットがあるのでしょうか。

    この記事でわかること

  • アイガモが害虫や雑草を食べてくれる
  • 株を刺激して丈夫な稲が育つ
  • 第一人者は豊臣秀吉説がある
  • 減農薬・無農薬のおいしいお米ができる
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合鴨農法とは?

田んぼの稲

合鴨農法とは、水稲作(田んぼ)にアイガモを利用する減農薬もしくは無農薬農法のことです。有機栽培や有機農業の一種とも言われますが、アイガモは食肉としても活用されるため、畑作と畜産を組み合わせた「複合農業」という見方が正しいともされています。

日本国内での普及率はまだ低いものの、オーガニックブームを背景に取り入れる農家が近年増加しています。

合鴨農法の歴史

古くは平安時代や安土桃山時代まで遡りますが、今現在の形に近い合鴨のヒナを水田に放す合鴨農法の始まりは、1990年代の福岡と言われています。当時は「アイガモ・水稲同時作」と呼ばれており、福岡県の有機農家・古野隆雄氏が提唱し全国に広めました。

元祖は豊臣秀吉だった説

豊臣秀吉と合鴨農法

日本には平安時代に中国大陸からアヒルやアイガモが持ち込まれ、除虫などを目的に家禽として育てられていたと言います。安土桃山時代を迎えると、除虫と番鳥を目的に豊臣秀吉がアヒルを水田に放したとの説があり、もしかすると有機農業の第一人者とも言えるかもしれませんね。

農薬の登場で一度廃れてしまった

その後、何度かアヒルやカモを水田で飼育する農法が出ては消えを繰り返しますが、1960年代になると農薬を使う農法が登場。これにより、水田でアヒルたちを見かけることはなくなりました。

1985年頃に富山県の農家が水田の生態系を保つ無農薬栽培の一環として、実用的アイガモ除草法を確立。これを受け、のちの「アイガモ・水稲同時作」へと繋がっていくわけです。

アイガモと農業をするまでの流れ

合鴨農法は、アイガモとお米を同時に育てる農法のため、要件や手順があります。

  • 水田で飼育するのは、アイガモのヒナだけ
  • 田植え後、7日~2週間のあいだに放す
  • 広さ10aあたり15羽~30羽が必要
  • ヒナにはクズ米などのエサが必要
  • 害獣対策が必要

ヒナだけが活躍する

仕事をするアイガモのヒナ

合鴨農法には、まずアイガモのヒナの仕入れや田んぼに放てる大きさになるまで育てる必要があります。水田放飼までしっかりと水浴訓練を行う必要もあるため、意外と手間がかかります。また、放つタイミングも大切で、田植え後すぐに放飼しないと水稲に害虫が発生してしまう恐れが。また、出穂すると今度はヒナが稲を食べてしまうため、頃合いを見計らって引き上げなければなりません。

ヒナたちが水田を泳ぎ、地表面に生えた小さな雑草を脚で浮き上がらせたり、採食したりすることに大きなメリットがありますが、これが成長したアイガモだと稲を傷つけることに。また、稲そのものを食べてしまうため、合鴨農法にはヒナが適しているのです。

補助飼料がかかる

害虫や雑草を食べてくれるからエサはいらない、なんてことはありません。食欲旺盛なアイガモのヒナたちには、1日につき1羽100gほどのクズ米などのエサを与えなければなりません。

合鴨農法の課題

いいこと尽くしの農法に思えますが、大きな課題があります。それは鳥や害獣にアイガモが襲われるケースです。

空からはカラスやタカ、陸からはキツネやタヌキ、野良犬・猫などがヒナを狙っています。大切なアイガモが襲われないように、侵入を防ぐネットや電気柵などの設置が必要です。

これらを考えると決してコスパの良い農法ではなく、コストと手間暇がかかった農法ということが分かりました。これもおいしいお米作りと、安心安全な食を提供するためのひとつのカタチなのです。

合鴨農法の効果・メリット

合鴨農法とは

合鴨農法では、以下の効果・メリットを期待できます。

  • 雑草の除去
  • 害虫の駆除
  • 糞尿が肥料になる
  • 株張りが良くなる

雑草の除去

アイガモは食欲旺盛で、田んぼを泳ぎ回りながら、雑草を食べます。

見えている雑草はもちろん、水中の雑草を泳ぐときに浮き上がらせて食べてくれるので、除草効果が高いです。泥水がかき回されて濁ることで、雑草に日光が届きにくくなる効果もあります。

害虫の駆除

アイガモは、草だけではなく、虫も食べてくれます。

特に、ヒナの時期は食欲が旺盛なので、お米づくりで一番気をつけたい害虫をしっかり駆除。農薬を使わなくても、アイガモが害虫対策のために働いてくれます。

糞尿が肥料になる

雑草や虫を食べると、アイガモは糞尿を排泄します。

一見、お米づくりに影響がありそうですが、糞尿は田んぼの肥料になるので、むしろプラスです。有機肥料を供給することになり、美味しいお米づくりの実現に役立ちます。

株張りが良くなる

黄金色に輝く立派な稲穂

アイガモは、稲の根元をくちばしでつつくことがあります。株に刺激を与えることで、株張りが良くなり、丈夫な稲が育つのも合鴨農法のメリットです。

また、泳ぐときに水田の泥水がかき回され、酸素が循環することも稲の成長に良い影響を与えます。

減農薬・無農薬のおいしいお米ができる

合鴨農法のお米で炊いたご飯

合鴨農法最大のメリットは、やはりおいしいお米ができるという点に他なりません。本来の食味を保ちながら、減農薬・無農薬米ができる画期的な農法なのです。

合鴨農法のデメリット

次にこの農法におけるデメリットを調べてみました。

  • 活躍するのはヒナのみのため、毎年新しいアイガモのヒナが必要
  • 雑草だけではお腹いっぱいにならないため、エサ代がかかる
  • 脱走や害獣を防ぐために設備投資が必要
  • ヒナが気ままに動くので、まんべなく処理してくれない

ほとんどは、メリットと表裏一体の事柄です。ただ、ヒナが気ままに動くというのは納得感がありました。アイガモは本来群れで行動を共にする鳥です。農法として上手に取り込むには、敷地面積に対して適した羽数を配置する必要があります。

アイガモたちのその後

米農家は収穫を終えた後、オフシーズンに入ります。アイガモにとってもお休みの期間に入るわけですが、どのように過ごしているのでしょうか。

アイガモのその後は「いのちをどう扱うか」にも関わるため、とても大切なことです。冬の様子も理解すれば、合鴨農法に対してもっと詳しくなれるでしょう。

冬の間飼育する

稲穂が出てからのアイガモは、田んぼの一角で飼育されます。自然に放すことができないためで、引き上げてからはしばしの休暇です。

食肉として消費・流通される

合鴨のロースト

飼育したアイガモを次の年も田んぼに入れるわけではありません。成長したアイガモを田んぼに入れると、稲を踏み潰すリスクがあるためです。成長したアイガモは食肉として処理・加工され、流通するのが一般的。

残酷なようにも思えますが、決してそうではなく、無駄なく命をサイクルするためのSDG’sの取り組みともマッチしています。合鴨は肉の旨みや豊富な脂身が特徴で、ローストや燻製でおいしく食べられる食材です。

近未来の合鴨農法がすぐそこに

前述のメリット・デメリットでも紹介したように、合鴨農法ではお米とアイガモが一緒に育ちますが、お米が実る頃にはアイガモがお米の実を食べてしまう恐れがあります。そのため、田んぼから引き上げられますが、アイガモを自然に放つことは法律で規制されているので、農家が食肉に加工する必要があります。

しかしながら、放ったアイガモが多いと農家で消費しきれなくなるという側面も持ち合わせているのです。この問題を解決すべく、日本を代表する農機メーカーとベンチャー企業によって『アイガモロボ』の開発が進められています。

アイガモロボ

すでに開発は進んでおり、2020年6月からは実証実験に入っています。代掻き後の水田を自律航行して、水中を撹拌し泥を巻き上げることで光を遮断。これにより水面下にある雑草の生長を抑制するというものです。除草剤を使わずに雑草が生えにくい状況を意図的に作ることで、除草にかかる労力を削減を目指しています。

2022年現在、210台体制で実験が繰り返されており、今後は量産化を課題としているようです。近い将来、日本の田んぼで、このアイガモロボを目にすることが増えるかもしれませんね。

writerprof_sugawara
菅原 光拳
ライター / フリーエディター
札幌生まれ、北広島市育ち。学生時代に釧路で環境と自然教育を学んだのち、卒業後も北見を拠点に道東で7年間を過ごす。現在は北海道観光をはじめ、ライフスタイルメディアなど多様なジャンルの記事を執筆中。