「口取り」って何? 北海道の正月を彩る縁起物の和菓子

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「口取り(くちとり)」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。和食の口取りや競馬の口取りがありますが、北海道では、お正月料理と一緒にいただくお菓子をイメージする人が多いと思います。最近は、北海道の独特な文化のひとつに取り上げられることが増え、全国的にも少しずつ知られるようになってきました。

道産子にとってあまり意識をしていないほど、身近な存在のお正月の風物詩で、本州では食べられていないことを最近まで知らなかった人も少なくありません。ここでは、これまで食べたり聞いたり調べたりしてきた口取りについて、道産子目線でご紹介します。

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北海道のお正月といえば、トシトリ膳と口取り

日本各地に独特の風習や文化があります。特に北海道は、早くは江戸時代から、その後明治以降、日本各地から北海道へ渡ってきた人が多く、このため日本各地の風習や文化が北海道各地に伝わっています。 なかには、本州では廃れてしまった風習が北海道に残っていることもあります。

なかでも北海道の “年取り” “お正月” といえば、大晦日の夜におせち料理を食べる習慣があります。そしてこれは、日本の昔ながらの風習が北海道に残っているといわれています。

北海道のお正月

明治初期まで使われていた旧暦(太陰太陽暦)は、1日の始まりが日没からでした。つまり新年も大晦日の日没からだったことから、旧暦の新年、大晦日の夜におせち料理を食べていた風習が北海道には現在まで残り、大晦日の夜からお節料理を食べる家庭が多くあります。

このため、大晦日の夜に食べるおせちは「トシトリ膳」と呼ぶこともあります。そしておせち料理と一緒にトシトリ膳に上がるのが口取りです。

最近では地域や家庭によって異なりますが、昔ながらの習わしでは、神棚や仏壇に口取りをお供えし、そのあと、おさがりで口取りがお膳にあがりました。

どこまでも甘~い和菓子

口取りは“口取り菓子”ともいいますが、北海道で会話にのぼる際は「口取り」ということが多く、菓子を付けていわなくても、道産子の多くはお正月の口取り菓子を思い浮かべます。

現在、その口取り菓子は、白餡を使った練り切りなどの和菓子です。かつては、落雁のような干菓子の口取りが多かったと記憶しています。

どこまでも甘~い和菓子

鯛や海老、松・竹・梅などのおめでたいとされる “縁起物” をかたどった生菓子で、形とともに特徴的なのは、その色。鯛は桃色、海老は橙、松は緑など、練り切りの表面は鮮やかに色付けられています。カラフルな練り切りの表面は、さらに寒天でコーティングされ、つやつやした色鮮やかな口取りは、とてもきれいです。

また、練り切りと一緒によく入っているのが三角羊羹です。羊羹の小豆は魔よけの「赤」を意味し、三角形もまた魔よけを意味する鱗模様からきている縁起物という説があります。

パック詰めされた口取りが年末の店頭に並ぶと、新年を迎える気分がグッと高まります。

練り切りと一緒によく入っているのが三角羊羹

そして口取りを半分に割ってみると、そのなかは、こし餡が入っています。練り切りでこし餡をくるんだ口取りは、とても甘いのも特徴です。

道産子でも、その甘さが苦手という人もいますが、少し塩分強めのおせち料理には、この甘さがよく合い、おせちと口取りを交互につまんでいると、ついネバーエンディングに。

生菓子のため賞味期限が短いこともあり、大抵、年明けには店頭から消えているので、ずらりと並ぶ口取りの光景は、まさに数日間限りの年末の風物詩です。

確実に口取りを買えるスーパーとコンビニ

口取り

口取りを確実に買うことができ、また、年末に最もよく目にする存在感がある口取りは、スーパーで売られている口取りです。

お店によって販売期間は異なりますが、スーパーでは12月26日ともなると、それまでクリスマス商品であふれていたコーナーは、口取りが前面に並ぶレイアウトに変わります。

スーパーやコンビニで見かける口取りは、鯛などの縁起物や干支の口取り1個(100円台)から、小さな鯛や海老などが入った3点プチサイズセット(200円~300円台)、最も多く見かける縁起物3点プラス三角羊羹セット(400円~600円台)など。スーパーなどで見かける口取りは、日糧製パンや山崎製パンなど製パンメーカーで作ったものが多く並んでいます。

北海道の人気製菓メーカーの口取り

スーパーやコンビニで販売する製パンメーカーの口取りに比べ、1社が販売する口取りのバリエーションは少ない場合もありますが、エリア限定、店舗限定などで販売しているのが、大手お菓子メーカーなどの口取りです。

製パンメーカーの口取りより、セットの内容が多めのものも多く、折詰で販売している場合も多いようです。

人気製菓メーカーの口取り

北海道を代表する有名な菓子メーカーでも、年末の期間限定で各店舗で販売していたり、なかには、一部スーパーで販売しているお菓子屋さんもあります。

例えば、札幌千秋庵(札幌市)、サザエ食品(札幌市)、柳月(音更町)、六花亭(帯広市)、吉田食品(函館市)、五勝手屋本舗(江差町)、三星(苫小牧市)など。

よく名前を聞く菓子メーカーの口取りは、定番のお菓子を知っているだけに口取りも気になります。多店舗展開している菓子メーカーは、より購入しやすく、年末近くなると広告を出しているケースが多いので要チェックです。

地元老舗和菓子店の伝統とこだわり

地域に根差した老舗のお菓子屋さんの口取りは、機会があればぜひ食べたい口取りです。一般的に口取りは甘みの強さが特徴ですが、老舗和菓子屋さんなどが作る口取りは、甘さ控えめなものもあります。

特に歴史がある町の老舗和菓子屋さんでは、シンプルな素材の練り切りや羊羹、すあまを使い、お節料理そっくりの口取りや、縁起物の本物の鯛にような大きな口取りを作り、単品で販売するところもあります。

伝統とこだわり

このような和菓子屋さんでは、口取りの賞味期限がとても短いこともあり、クリスマスの後から大晦日までの数日間、ごく短い販売期間だったり、予約販売で年末の1日・2日間のみの引き渡しをおこなっていたりするお店もあります。店頭に並べて販売している和菓子屋さんでも、数量限定のため、早々に売り切れることも。価格は、折り詰めに入っている口取りの種類や数によって異なりますが、1,000円代から3,000円代くらいまであります。

口取りを毎年作っている和菓子屋さんは、道央では札幌・小樽など、道北は稚内・旭川など、道東・オホーツクは釧路・芽室・本別・北見など、道南は函館などと、全道各地にあります。各地の名物老舗和菓子店の口取りは、遠方にいると手に入れるチャンスが少なく、だからこそ、その町にいる人だけが手に入れられる、より貴重な口取りといえます。

青森と共通点あり!? 口取りと「べこもち」

北海道特有の風習といわれている口取りですが、青森県でも同じ風習があり、年末には地元製パン会社が作った口取りがスーパーに並ぶそうです。その青森と共通するのが函館など道南エリアをはじめ北海道で食べられる和菓子、特に端午の節句によく食べられる「べこもち」の文化です。

青森と共通点あり

青森の大間町など下北エリアには「べこもち」と呼ぶ和菓子があります。一見、北海道でよく見る木の葉型のべこもちとは見た目が異なり、青森のべこもちは板かまぼこ型を切ったような形でカラフルな花模様などが金太郎飴のように練りこまれていますが、青森のべこもちも、もとは北海道と同様の白と茶色だったようです。

青森のべこもちが道南に伝わり、現在北海道で作られている木の葉型のべこもちへ形を変え、道内各地に広まったという説があるので、口取り文化もまた、和菓子の「べこもち」文化と同じく、北海道と青森の歴史的背景とつながりを感じさせる風物詩といえるのかもしれません。

口取りから歴史ロマンに思いをはせる

口取りの名前の由来は、和食のおもてなし料理で出される甘い味付けの料理 “口取り” から来ているといわれていますが、詳しいことは老舗菓子店の方もはっきりとはわからないそうです。

歴史をさかのぼると、北海道では北前船が航行していた頃、生活に必要な多くのものは、大阪を起点とする北前船が各地を巡り、北海道へ運んでいました。そのなかにはお米・塩・砂糖なども入っていました。

小樽のお菓子屋さんでは、「小樽は港があって、質がよい砂糖が入ってきたので、おいしいお菓子屋さんが多かった」と聞きましたが、現在も口取りを毎年作っている老舗のお菓子屋さんは、北前船の寄港地だった函館界隈や小樽・釧路に多いようです。

歴史ロマンに思いをはせる

ここからは筆者の想像ですが、1年に1度、4月下旬から5月にかけて北前船が到着する北海道では、本州と同じような物資が思うように手に入らなかったなか、お正月を迎えるにあたり縁起物の鯛や海老は当然手に入らず、懐かしい本州の郷里を思い出しながら、ほかのもので縁起物を代用しようとしたのかもしれません。

そして本物の縁起物がない環境で、せめて当時の高級品を使ってお正月を迎えようと、北前船でしか手に入らなかった貴重な砂糖を使い、お節料理を模した甘い「口取り菓子」を作ったのでは、と推測します。

北海道と青森ならではの独特な口取り文化は、遠く本州から北海道へ渡ってきた人々のルーツやその人々の文化を支えた北前船の歴史、つまり本州とのつながりの深さを意味しているのかもしれません。

まとめ

口取りは、道産子にとってはごく自然なお正月の風物詩ですが、初めて老舗の和菓子屋さんの口取りを食べたときの感動は、いまだに忘れられません。以来、口取りの魅力に引かれ、毎年、違うお店の口取りを食べる習慣ができました。

一方、口取りは賞味期限が短く、期間限定販売のため、各地のいろいろなお店の口取りを食べる機会はとても少なく、それが実は口取りの魅力のひとつかもしれません。 年末、北海道に滞在することがあれば、ぜひその町伝統の口取りを探してみてください。

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市之宮 直子
フォトライター / コミュニケーション・アテンダント
小樽生まれ、江別育ち、札幌在住の「どさんこ」。取材記者時代には、釧路で道東ライフを満喫。近年は食と観光を中心に、北海道の魅力発信をライフワークとしている。Facebookページ“Photogenic Hokkaido”主宰。