おせち料理の「昆布巻き」は北海道発祥! 郷土料理の歴史と作り方を知ろう

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縁起の良い料理として、日本のおせちに欠かせない「昆布巻き」ですが、実はもともと北海道の郷土料理だったということはあまり知られていないかもしれません。

こちらの記事では、昆布が北海道から全国に広まった歴史や、お正月に食べられる理由、昆布の選び方や栄養などについてご紹介します。昆布巻きの基本レシピも紹介しているので、ぜひ作ってみてください。

    この記事でわかること

  • 鎌倉時代には北海道産昆布が全国へ
  • 昆布の語呂合わせはおめでたいものばかり!
  • 出汁用と食用の昆布は違う?
  • 意外と簡単?昆布巻きの作り方
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近江商人から北前船へ

古くから漁業が盛んな北海道では、昆布の生産量も豊富でした。鎌倉時代には昆布の乾燥方法が確立され、北海道から本州に出回りはじめます。800年以上の歴史があるんですね。

当時、昆布を含めた北海道の産物を本州に運んでいたのは、戦国時代末期から北海道(松前)に進出していた近江商人たちです。松前から船で日本海を進み、敦賀で陸揚げして琵琶湖を経由し、大阪へと運びました。近江商人たちの多くは共同で船を仕立てて船乗りを雇いましたが、雇われたのは北陸の船乗りが多く、後に、この中から自分で船を得て大阪で商売を始める者が現れます。これが「北前船」と呼ばれるようになるのは江戸時代以降です。

近江商人から北前船へのイメージ

江戸時代、幕府は天領地(幕府の直轄地)から米を運ぶ必要がありました。日本海側の天領から津軽海峡を通過して太平洋を南下する東回り航路は危険な海域だったため、遠回りにはなりますが、下関や大阪を回る西回り航路を整備します。この航路の安全性を知った日本海側の諸藩も、船で年貢米を運ぶようになりました。

そうして、以前から近江商人が築いていた北海道―敦賀間の航路と、米を運ぶための酒田―大阪航路が結びつき、北前船と呼ばれるようになります。全国的に開田が進み、収穫量が上がってきた江戸時代、人々の暮らしは豊かになって、昆布やニシンの需要も増えます。明治になってからは丈夫な帆布も発明されたことから船の耐久性も上がり、北前船は最盛期を迎えました。

北前船で輸送量が増えた北海道の産品。その多くは日持ちのする乾物でした。乾燥した昆布と身欠きニシンで作る昆布巻きが、北陸を経由して日本全国に広まっていったのは自然な流れだったことでしょう。今でも北陸で昆布巻きが好まれ、京都をはじめ、西日本の各地に「ニシン蕎麦」が名物として残るのは北前船の影響だったんですね。

ちなみに「身欠きニシン」の「身欠き」は、ニシンの干物を水で戻した際に、身が筋ごとに欠きやすくなるためについた俗称です。冷蔵技術が発達していなかった時代には、頭や内臓をとって、しっかり乾燥させることが一番の保存方法でした。

お正月に食べられる理由

お正月に食べられる理由

おせち料理で欠かせない昆布巻きですが、ここには様々な意味があります。まず昆布は「よろこぶ」との語呂合わせで昔から縁起物として用いられており、「養老昆布(よろこぶ)」とも書かれることから、お祝いの意味や不老長寿の願いが込められています。「子生(こぶ)」という当て字をすることで子孫繁栄の意味もあります。

また、もともと幅が広い海藻の意味で「広布」と表していたものが音読みされ、「こんぶ」と呼ばれるようになったという説もあります。乾物としての昆布は結納の品のひとつとしても使われますが、結納の席などでは「子生婦(こんぶ)」と表記されることも。

お正月に食べられる理由2

中に入れるニシンは昔、米が取れなかった松前藩の年貢として認められていたことから、“魚に非ず、海の米なり”と言われ、「鯡」と書かれるようになりました。また、北海道の厳しい冬の保存食として命を繋いでくれる親のように大切なものだったため、語呂合わせで「二親(にしん)」(=両親)とも書かれ、卵(数の子)の粒の多さから子宝成就や子孫繁栄の意味も込められています。数の子自体も縁起の良いものとしておせちに使われるので、親子の共演という形になりますね。

また、ニシンは産卵時期の栄養を蓄えた冬~春が旬です。産卵期を迎えたニシンは浅瀬に近づいて、メスが卵を産み付けた海藻にオスが精子を放出します。最盛期の北海道では、大量のニシンのオスが一斉に放精するため、海が白く濁るほどでした。これが、厳しい冬の終わりとニシンの豊漁を告げる「群来(くき)」です。ニシンは春を告げる魚とも言われますが、群来に沸き立つ漁村の様子を想像すると、子孫繁栄を願うのにふさわしい魚だと思えます。

昆布の選び方

ひとくちに昆布と言っても、その種類によって扱い方が違います。大きく分けると出汁用と食用の2種類ですが、出汁用の中でも昆布だけで出汁をとるのに適した昆布と、かつおや煮干しなどと合わせるのに適した昆布があります。

出汁用昆布

羅臼昆布、真昆布、利尻昆布などが出汁用です。羅臼昆布は中でも濃厚で力強い出汁がとれるため、昆布だけで出汁をとる場合に向いています。ただし、とった出汁は若干黄色みを帯びるため、色のない透明な出汁をとりたい場合は羅臼昆布ではないほうがいいでしょう。羅臼昆布は煮ることでうま味を出し尽くしてしまうため、食用にはあまり向いていません。

真昆布や利尻昆布は、上品な甘みとコクで合わせ出汁に向いています。特に利尻昆布は香りの高さが特徴で、京都の千枚漬けなどには利尻昆布が使われているようです。

出汁用の昆布は煮ても柔らかくならないため、昆布巻きには向いていません。

食用昆布

食用昆布

日高昆布、棹前昆布などが柔らかく、昆布巻きや佃煮などの食用に向いています。日高昆布は出汁用としても使えますが、汁は若干にごってしまうため、透明さを求めたいお吸い物などには真昆布や利尻昆布がいいかもしれません。にごっても構わない料理であれば、日高昆布は出汁用にも食用にも使える便利な昆布です。

棹前昆布は、昆布巻きに最適の昆布です。昆布漁の解禁を「棹入れ」と言いますが、その昆布漁の前に収穫した長昆布が棹前昆布(棹入れ前の昆布)と呼ばれます。柔らかくて煮上がりが早く、煮くずれしにくいのが特徴で、「早煮昆布」とも呼ばれます。棹前昆布は道東、釧路町昆布森産のものが本場ですが、日高昆布の若いものも「早煮昆布」として売られています。どちらも昆布巻きにおすすめなので、お好みで選んでください。

海の栄養をたっぷり吸い込んだ昆布のパワー!

海中で育つ昆布は海から多くのミネラルを吸収します。昆布に含まれる栄養素の代表的なものはカルシウム、鉄、ヨウ素、フコイダン、アルギン酸です。

カルシウム

骨や歯の栄養になるカルシウムは乳製品に多く含まれていますが、昆布には牛乳の約4倍ものカルシウムが含まれます。カルシウムは骨や歯を作るだけではなく、ホルモンの放出、血液の凝固、筋肉の収縮など、人間の生命維持に欠かせない生理機能を調整する重要なはたらきをしています。また、不足してしまうと骨粗しょう症のリスクも懸念されます。骨粗しょう症の予防には若いうちから丈夫な骨をつくっておくことが大切と言われますが、残念ながら日本人のカルシウムの平均摂取量は長年必要な量に達していません。毎日コツコツ、積極的に摂取したい栄養素ですね。

人の体内では合成されないため、食べ物から摂取しなければいけない「必須ミネラル」です。体内では赤血球の一部として血液中の酸素を運搬するなど重要なはたらきをします。鉄分が不足すると全身に十分な量の酸素を運ぶことができなくなり、頭痛や動悸、倦怠感、めまい、顔色が蒼白になるなどの貧血症状が表れることが多くなります。

鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられますが、植物性食品である昆布に含まれる鉄は非ヘム鉄なので、ヘム鉄より吸収率が低めです。鉄の吸収を高めるビタミンCと合わせて摂るのがおすすめです。とくに女性は鉄分不足による貧血になりやすいので、赤血球を作るためのビタミンB12や葉酸、ヘモグロビンを作るためのタンパク質などとともに摂るのが効果的です。

海の栄養をたっぷり吸い込んだ昆布のパワー!

ヨウ素

ヨウ素(ヨード)は主に海藻に含まれる、新陳代謝や子どもの成長促進などに関わる「甲状腺ホルモン」の材料となるミネラルです。ヨウ素が不足すると、甲状腺ホルモンのはたらきが低下するおそれがありますが、1日の必須量はごくわずかのため、昆布を摂る習慣がある日本人は、ヨウ素が不足することはほとんどありません

そのため、昆布を多くとりすぎると、日本人はヨウ素が過剰になってしまい、甲状腺機能が逆に低下してしまうおそれも。もちろん、一般的に食べる量であれば問題はありませんが、食べ過ぎには要注意です。

フコイダン、アルギン酸

昆布やもずくなど、茶色い海藻のネバネバ成分がフコイダンという水溶性食物繊維です。この成分は海藻が自らの身を守るためにまとう成分なので、免疫力を高めたり、ウィルスの増殖を抑える働きがあると言われています。また抗アレルギー作用や、胃粘膜を保護する効果も報告されているとか。

アルギン酸もフコイダンと同様、水溶性食物繊維です。昆布にはアルギン酸カリウムという形で含まれ、これはコレステロールの排出に効果的な成分です。水溶性食物繊維は腸内で水分を取り込み、余分な糖分を吸着して体外へ排出する働きや、血圧を下げる効果、整腸作用などにも期待できます。

昆布巻きの作り方

使う食材は乾物なので戻す手間がありますが、ニシン以外は当日で大丈夫です。柔らかく戻したら昆布で巻いて煮込むだけなので、実は意外と簡単。ぜひチャレンジしてみてください。

昆布巻きの作り方

基本のレシピ

材料

  • 身欠きニシン 3本
  • 日高昆布or棹前昆布 約100cm
  • かんぴょう 適量
  • A酢水(水5カップ、酢大さじ1)
  • B調味料(昆布の戻し汁300ml、みりん大さじ2、酒大さじ3、砂糖大さじ5、酢大さじ1)
  • しょうゆ 大さじ3
    1. 身欠きニシンは頭を切り落とし、さっと茹でて油抜きをしたら、米のとぎ汁に1日以上漬けて戻しておきます(夏場は冷蔵庫へ)。
    2. 戻したニシンをぬるま湯で洗って水気を取ったら、縦に2つに切り、骨を取り除きます。
    3. 昆布はふきんで汚れをとってから水につけて柔らかくなるまで戻します。戻し汁は煮る時に使うので捨てずにとっておきましょう。
    4. かんぴょうはAの酢水で戻して、水気を絞ります。
    5. 昆布の端にニシンを置いて、きつく巻きます。巻き終えたら爪楊枝で留め、かんぴょうで結びます。2カ所で結ぶとあとで切りやすいです。煮込むと昆布が膨らむので、かんぴょうは少しゆるめでも大丈夫ですが、巻き終わりはきちんと結びましょう。
    6. 鍋に昆布を巻いたものを並べ、Bの調味料を入れて中火にかけます。沸騰したらアクをとり、落とし蓋をして10分煮ます。
    7. 弱火で30分ほど煮込み、昆布が柔らかくなったらしょうゆを加えて煮汁が半分になるまで中火で煮詰めます。煮上がったら鍋のまま冷ましましょう。
    8. 食べやすく一口大に切って盛り付けます。

具材をアレンジ

具材をアレンジ

身欠きニシンの他、通年で入手しやすい鮭もよく使われます。鮭の場合は戻す手間がないのでさらに簡単になりますね。骨をとった生鮭の切り身を使いますが、お刺身用のサーモンを巻くと、骨をとる手間もなく、形もきれいに整いやすいです。その他、ししゃも、たらこ、鶏肉、ごぼうなどいろいろなアレンジも楽しめます。

まとめ

農作物の収穫が少なくなる冬の北海道で、食物繊維やミネラルを摂取できる昆布と、当時は豊漁だったニシンで作られていた昆布巻き。昆布も身欠きニシンも保存が効くものだったことから、北前船で全国へと広まっていきました。

海のミネラルを蓄えた昆布は栄養たっぷり! 身欠きニシンは時期によっては手に入りにくいかもしれませんが、鮭や鶏肉を使った昆布巻きを、常備菜の1つに加えてみてはいかがでしょう。

writerprof_minagawa
皆川 今日子
ライター
札幌在住。旅行誌を中心に、観光・グルメ系メディアにて執筆中。趣味は料理とゲーム。長年、掃除を苦手としていることで悩んでいたが、「掃除に必要な才能を生まれ持たなかった」と割り切ることで気が楽になった。