エゾシカってどんな動物?特徴や増加による害獣被害と対策についても分かりやすく解説
北海道で山道をドライブしていると、エゾシカに遭遇することも珍しくありません。一般道や高速道路には「鹿とび出し注意」の標識が設置されていることも多いです。
一時期、絶滅危惧種寸前であったエゾシカですが、近年はエゾシカの繁殖により、個体数は急上昇しています。一方で、エゾジカの急増によって北海道ではさまざまな獣害が問題になっており、対策に追われているのも事実です。
本記事では、北海道ならではの野生動物であるエゾシカへの理解を深めるため、生体や特徴について解説します。合わせて、エゾシカによる被害や対策、駆除したエゾジカの再利用、食用化についても分かりやすく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
北海道の固有種・エゾシカとは?
本州に住んでいる人にとってエゾシカは、馴染みのない動物でしょう。そもそも、エゾシカがどのような動物なのかは、あまり知られていません。
この項目では、エゾシカの基本的な情報と歴史について解説します。
エゾシカはニホンジカの一種
エゾシカはシカ科シカ属に分類される、ニホンジカの一種です。ニホンジカの亜種は、エゾシカの他にもホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクシカ、ツシマジカ、ケラマジカ、マゲジカがおり、日本には計7種が生息しています。
かつては、雪の少ない釧路・根室地方や十勝地方などの一部にしか生息していませんでした。しかし、1900年代以降は雪の多い石狩地方や、空知地方にも温暖化のため分布拡大が進んでいきました。現在では北海道全域に分布しており、北海道では馴染みのある動物です。
エゾシカの歴史
明治時代の北海道は未開の地であり、原始の森に覆われていました。蝦夷を探索し「北海道」と名付けた松本武四郎は、東蝦夷日誌のなかで一面に広がるエゾシカの大群を見て驚愕したと記しています。
北海道開拓以降は、大量のエゾシカの狩猟により、5年間で57万頭以上ものエゾシカが捕獲されました。この大量狩猟の目的は、多くのシカ肉を海外に輸出し、資金を捻出するためでした。
その後も開拓に伴う森林伐採が追い討ちをかけ、エゾシカは一時期絶滅寸前の危機に陥りました。
種の絶滅を防ぐため、政府や地元猟師達は禁猟政策を取り進め徐々に数を増やし、2000年代には約65万頭まで増加しています。
エゾシカの特徴や生態
続いては、エゾシカの特徴や生態について解説していきます。
エゾシカの生息地
エゾシカは、草原や牧草地を好み、木の芽やどんぐりなどが主食です。そのため、食料が採取しやすい海抜の低い土地や木々の多い山林に生息しています。
また、同じ場所で生活する個体と、夏と冬に規則的に移動しながら生活する個体に分かれることも知られています。100キロ以上移動する個体もおり、冬になると雪の少ない地域で越冬します。
エゾシカの大きさ
エゾシカは、体長90㎝から最大で190㎝にまで成長します。本州に生息するニホンジカよりも、ひと回り大きい個体が多いのが特徴です。
体重はメスで25kgから100kg、オスが50kgから最大で200kgを超える個体もいます。本州に生息するニホンジカよりも大きい理由は、北海道の厳しい寒さを生き抜くためだと考えられています。エゾシカは越冬に備えて秋に脂肪を蓄える習性があり、1日に2kgから5kgの餌を食べることも珍しくありません。
たくさん食べて体を大きくすることで、北海道の厳しい寒さを乗り越えることができています。
エゾシカの性格
エゾシカは、一般的な草食動物と同じく、臆病な性格を持った個体が多い傾向にあります。基本的に人を襲うような事はないため、北海道でエゾシカに遭遇しても、刺激しなければそれほど危険はないでしょう。しかし、繁殖期の雄や子育て中の雌は、時に攻撃的になることがあり、北海道では稀にエゾシカによる人的被害も報告されています。
臆病な性格のため、群れで行動する習性がありますが、群れは雌雄別に構成されています。雄の群れ、雌の群れがそれぞれにあり、角の有無などによって見分けることが可能です。
繁殖期には縄張りのなかの雌の群れに、雄が合流しハレムを作り、一夫多妻の状態で繁殖を行うと言われています。
夏と冬では毛色が全く違う
エゾシカは夏と冬の年2回、換毛期が訪れます。夏は「鹿の子模様」と呼ばれる茶色い毛色に白い斑点模様になるのが特徴です。鹿の子模様と聞くと子鹿だけに出る模様だと思われがちですが、大人にもこの模様は見られます。
一方で冬毛は、斑点模様のない灰色です。エゾシカは、夏と冬で毛色が全く異なるので、はじめて見る方は別の動物だと勘違いしてしまうことも少なくありません。
オスの角は毎年生え変わる
一般的に多くの鹿は雄にだけ角が生えます。雌にもコブのような突起があるものもいますが、雄のように大きな角が伸びていく種類は殆どいません。エゾシカも角が生えているのは雄のみです。
ニホンジカの多くは1年で角が生え変わります。毎年4月から5月にかけて根本部分から自然に脱落し、袋角(ふくろづの)と呼ばれる柔らかい袋で覆われるのが特徴です。そこから9月頃にかけて、根元から角化していき立派なツノへと成長します。
エゾシカも毎年角が生え変わるため、北海道の森林を散歩していると、脱落した鹿の角を見つけることも珍しくありません。
北海道に生息しているエゾシカの数
推定生息数 | |
---|---|
2018年 | 65万頭 |
2019年 | 67万頭 |
2020年 | 67万頭 |
2021年 | 69万頭 |
2022年 | 72万頭 |
一時期、乱獲によって激減したエゾシカですが、2000年以降の生息数は増加傾向にあります。
北海道環境生活部自然環境局の調べによると、2022年度のエゾシカの推定生息数は72万頭と発表されており、特に道東エリアに多く生息していると考えられています。前年と比べて増加数は3万頭との予測もあり、2018年以降増加し続けています。
エゾシカによる被害
エゾシカは、2000年代に入ってから急増化傾向にあり、人間社会にさまざまな影響を及ぼしています。続いて、エゾシカによる被害を見ていきましょう。
農作物への被害
エゾシカの主要な被害として挙げられるのが、農作物や林業への問題です。
エゾシカの食害による被害の約半数が牧草被害と報告されており、牛や豚の餌となる牧草がエゾシカによって食べられてしまうと、乳量減少や餌代が余計にかかってしまいます。
その他、北海道の特産品でもあるトウモロコシ、テンサイ、コムギ、ジャガイモ(バレイショ)などの農作物も、エゾシカによって食害を受けているのが現状です。
エゾシカによる農林業の被害額は年々増え、2011年に64億円を超える大きな被害額が問題になっています。
希少植物や自生植物・環境への被害
北海道は、固有種とされる自生植物が多いことでも知られています。しかし、これらの希少植物もエゾシカによる食害や踏みつけにより、植生破壊の被害を受けています。
特に、シレトコスミレやユウバリソウ、ハマナス、エゾカンゾウなど、北海道を代表する希少な高山植物の食害は問題視されており、対策が求められています。放置してしまうと、北海道の固有種が絶滅してしまう危険性もあるでしょう。
希少な植物以外にも、エゾシカが幼樹を食べてしまうことで森林が減少し、土砂や落石が置きやすくなっている地域も存在しています。
一方で、エゾシカが好まない植物ばかりが数を増やしていくなど、北海道の本来の自然環境のバランスが崩れていることも大きな被害のひとつです。
交通事故による被害
エゾシカによる被害で次に問題とされているのが、交通事故です。エゾシカの交通事故による被害は、何も車だけではありません。列車とエゾシカの接触事故も多く報告されています。
エゾシカによる列車事故は、年間2,800件以上も起きています。また、自動車による交通事故は年間2,000件以上起きており、令和2年度では過去最高の3,500件以上に登りました。
エゾシカが原因の交通事故のうち、約42%は10月から11月にかけて発生しており、越冬前のエゾシカの移動が原因だと考えられています。時間帯では約70%以上が16時から24時にかけてが一番多く、北海道ではドライバーに以下の予防策を呼びかけている地域もあります。
- 秋〜初冬の運転に注意する
- 早朝・夜間の運転に注意する
- ライトの反射に注意する
- 一頭だけだと思わない
長く暮らす北海道民であれば、これらの予防策を知っている人も多いですが、他府県から旅行などで北海道を訪れている人がレンタカーなどで事故を起こすケースも多く報告されています。
感染症による被害
エゾシカに限らず野生の動物は、人間に感染する病原菌を持っている可能性があります。そのため、エゾシカに遭遇しても決して近づいたり触ったりしないようにしてください。
特に、エゾシカには6種類のマダニが寄生していることが多く、マダニを媒介した感染症への注意が必要です。
マダニを媒介する感染症には、ライム病やダニ媒介性脳炎などがあります。ダニ媒介性脳炎においては、世界的に新規感染者数が増加傾向にあるため、特に注意が必要です。
人への攻撃による被害
基本的に臆病で大人しい性格のエゾシカですが、発情期の雄や子育て中の雌は攻撃性を持つことがあります。雄の持つ大きな角による攻撃のほか、巨体による踏みつけで人的な被害が出るケースも報告されています。
特に多いのが、人間が小鹿に近付いて母鹿から攻撃を受けるケースです。エゾシカの出産時期である6月から7月にかけては、弱って動けない子ジカを見ることもあります。そのような場合は、必ず親ジカが近くで見守っています。人間がむやみに近づくと攻撃される危険性があるので、注意しましょう。
エゾシカ被害の対策
エゾシカと人間の共生のために、さまざまな対策が行われています。この項目では、具体的なエゾシカ対策を見ていきましょう。
【対策1】狩猟
推定生息数 | 駆除数 | |
---|---|---|
2018年 | 65万頭 | 11.2万頭 |
2019年 | 67万頭 | 10.7万頭 |
2020年 | 67万頭 | 13.0万頭 |
2021年 | 69万頭 | 14.3万頭 |
2022年 | 72万頭 | 14.5万頭 |
北海道森林管理局では平成26年度より、エゾシカ森林被害対策の一環で捕獲事業を実施しています。捕獲したエゾシカにGPSを装着して、どのような範囲を移動しているかを把握し、生態系や狩猟の効率化にも役立てています。
増え過ぎたエゾシカを狩猟し、個体数を減らす施策ですが、2022年度は14.5万頭を捕縛しているものの、予測生息数は2021年度に比べて増加しています。
ハンターの高齢化や減少などにより、狩猟による対策が思うように進まない点や猟銃の誤射などの死亡事故、動物愛護団体による反対活動など、さまざまな課題を抱えているのが現状です。
【対策2】柵の設置
エゾシカによる農作物や希少植物などの食害への対策として、侵入防止柵の設置も行われています。
また、道路沿いに侵入防止柵を設置することで自動車との接触事故を防ぐ効果も期待されています。
柵の設置によって、農作物や希少植物の食害は減少傾向にあり、エゾシカの侵入を防ぐことで自然環境の改善効果も期待できるといわれています。
狩猟したエゾシカの再利用
狩猟したエゾシカは、さまざまな形で再利用されています。続いては、北海道で注目を集めているエゾシカの再利用方法について紹介していきましょう。
肉は食用して活用する
狩猟したエゾシカを食用として活用する動きが高まっています。鹿肉は、高タンパク・低カロリーであり鉄分も多く含まれているので、栄養素的には非常に優れた食材です。
また、ジビエとして古くからフランス料理の食材としても鹿肉は親しまれてきました。昨今の北海道では、給食に鹿肉が提供されるなどの活動が行われています。
角や革は工芸品として活用する
エゾシカから採れる革や角などは、身近な生活品や工芸品などにも活用されています。エゾシカの革は柔軟性や吸水性が優れており、高級なセーム革として革製品に用いられることも珍しくありません。
また、エゾシカの角は加工して工芸品とされる他、漢方薬(生薬)として取引されることもあるなど、さまざまな形で資源として消費されています。
まとめ
エゾシカの生態や特徴、北海道での被害について紹介しました。車での北海道旅行を検討している方は、エゾシカによる交通事故にも注意しましょう。
また、エゾシカは北海道のジビエ料理の代表格とも呼ばれる食材です。健康的でおいしい食材なので、積極的に食することで生態バランスの維持にも繋がります。北海道を訪れた際には、そういった点も意識してみるとより良い旅になるでしょう。