北海道の郷土料理「てっぽう汁」とは?由来や材料・レシピを紹介
北海道にはさまざまな郷土料理がありますが、てっぽう汁という料理があるのをご存知でしょうか?カニの水揚げ量が多い北海道に根付いたてっぽう汁は、汁物で温まりたいこの時期にもぴったりな道民のソウルフードです。
この記事では、てっぽう汁についてどのような料理なのか、由来や特徴、材料、レシピなどを詳しく紹介します。
この記事でわかること
- てっぽう汁は根室地方の漁師から発祥した郷土料理
- カニを入れたみそ汁をてっぽう汁という
- てっぽう汁にはフグを使った別の料理もある
北海道の郷土料理「てっぽう汁」とは
てっぽう汁とは、北海道の道東地方で主に根室周辺に伝わる郷土料理です。カニを使った味噌汁をてっぽう汁と呼び、元々はカニ漁を行う漁師が食べていた漁師飯のひとつですが、今や根室地方の名物として知られています。
てっぽう汁という名前は、カニを食べる様子から名付けられたといわれています。 カニを食べる時に箸を使ってカニの足をつついている様子は、鉄砲に玉を詰めている様子や鉄砲を掃除している様子に似て見えるでしょう。このことから、てっぽう汁と呼ばれるようになったといわれています。
てっぽう汁に使うカニの種類は?
てっぽう汁の発祥地である根室地方は、花咲ガニの水揚げが盛んな地域として知られています。そのため、てっぽう汁に使われるカニは花咲ガニが多いです。 熱を通すと花が咲くようにトゲトゲした殻が鮮やかな赤色に染まる花咲ガニは、見た目にも食欲をそそります。花咲ガニがとれるのは6月~9月なので、根室地方では夏から秋にかけて食べることが多いです
一方、北海道全土を見てみるとズワイガニや毛蟹などをてっぽう汁に用いることもあり、使うカニの種類には決まりがないことがわかります。てっぽう汁はあくまでカニを使ったみそ汁の総称です。カニの種類は時期や好みによって変えても、てっぽう汁に変わりありません。
てっぽう汁が美味しい理由
てっぽう汁は濃厚なカニの風味を感じさせる香り高いみそ汁で、一般的には長ネギや豆腐などシンプルな具材を用いることが多いです。
シンプルながらもその美味しさの秘密は、カニを丸ごと入れている点にあります。カニは、身だけでなく殻からも濃厚な出汁がとれます。カニは身や殻にグルタミン酸が豊富に含まれています。
グルタミン酸は旨味成分とも呼ばれ、殻を煮込むことで良質のカニ出汁をとることができます。これこそがカニを殻ごと全て使って作るてっぽう汁が美味しい理由です。
てっぽう汁の栄養
てっぽう汁は美味しいだけでなく、栄養をしっかりととれる優れた料理です。てっぽう汁に含まれる栄養は大きく分けて「カニの栄養」と「味噌の栄養」にあります。
カニの栄養
カニには、カルシウムをはじめ、キトサン、タウリン、アスタキサンチン、ナイアシンなどが豊富に含まれています。また、良質なタンパク質で構成されているため効率的にエネルギーや栄養を摂り入れることができる食材です。
カルシウム | 骨や歯の形成の他、細胞分裂、筋肉の収縮、神経の興奮を落ち着かせる働きがある |
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キトサン | 食物繊維の一種。体内の有害物質を吸着して排出するためデトックス効果が期待できる |
タウリン | 身体の恒常性を保つ働きがある。コレステロール値を下げる効果が期待できる |
アスタキサンチン | 抗酸化作用を持つ栄養素。美肌効果、血流改善、生活習慣病の予防効果も期待できる |
ナイアシン | 体内の酵素を活性化させる働きがある。アルコールの分解を助ける効果も期待できる |
ちなみに、カニには殻にもキトサン、アスタキサンチン、カルシウムなどが豊富に含まれています。出汁をとるためにカニの殻だけを入れたてっぽう汁でも、さまざまな栄養を摂れるのです。
味噌の栄養
味噌の原料となる大豆は畑の肉と呼ばれることもあるほど、良質なタンパク質を含んでいる豆類です。サポニン、イソフラボンなど豊富な栄養を含んでいるため、味噌からもこれらの栄養を取ることができます。また、大豆を味噌として発酵させるなかで、アミノ酸やビタミンなどが多く生成されるのも特徴のひとつです。
特に大豆に含まれるイソフラボンは、抗酸化作用があるため美肌効果や老化を抑制する効果も期待できるでしょう。味噌に含まれる脂肪酸エチルにはがん細胞の抑制効果が期待できると言われており、味噌から抽出したエタノール抽出物(脂肪酸エチル)によってがん細胞の増殖抑制効果が見られたという報告もあります。
てっぽう汁の簡単レシピ
美味しくて栄養豊富なてっぽう汁は、材料があれば家庭でも手軽に作ることができます。
てっぽう汁の材料
てっぽう汁の材料は以下のとおりです。
- カニ(殻だけでもOK)
- お好みの出汁(昆布出汁や鰹出汁など)
- 味噌
- お好みの具(豆腐やねぎなど)
- 料理酒
カニから良質で濃厚な出汁が摂れますが、昆布出汁や鰹出汁を掛け合わせるとより旨味が増します。具については、好きなものを入れてよいです。もちろん、カニだけでも美味しく食べられます。
てっぽう汁の作り方
てっぽう汁は以下の手順で作ります。
- お好みの出汁にカニを入れて沸騰させないように弱火で煮込む(30分~1時間ほど)
- 蒸発した分、出汁を足す
- お好みの具を入れて火を通す
- 料理酒を少量加えて味噌を溶く
一手間加えて、カニの出汁をとる前に殻をしっかりと炒ると、より香り高い出汁が摂れます。また、カニの身を食べる場合、出汁をとってしまうと味が薄まってしまうことがあるので注意しましょう。カニの身を食べる場合は、事前に身を取っておき、殻だけで出汁をとって完成後に身を加えるのがおすすめです。
てっぽう汁のカニは食べる?食べない?
北海道の根室地方で食べられるてっぽう汁は、いわゆる漁師飯です。そのため、カニを水揚げした際に出荷できないような小さいカニや水揚げの際に折れてしまった足などを用いて作られることも多くあります。
カニが小さかったり身付きの少ない場合は、カニを食べないことも多いでしょう。しかし、お店などで提供されているてっぽう汁は、食べ応えのある太いカニの足を使ったり、身を取りやすいよう殻に切り込みを入れているものも少なくありません。
つまり、てっぽう汁のカニは食べても食べなくてもOKということです。ただし、出汁を取った後のカニは、旨味が出汁に移ってしまい味が薄くなることがあります。
お店などで提供されているてっぽう汁は、出汁を取るためのカニと盛り付けにつかうカニを分けて調理していることが多いです。家庭で作る際にも、身の少ない細い足を出汁用に使い、太い足を後から盛り付けるとカニの身まで美味しく食べられるでしょう。
てっぽう汁に使うカニは冷凍でもOK!缶詰で商品化されているものもある
てっぽう汁はカニの旬である冬に多く食べられます。旬の時期で水揚げ量が増えることも理由のひとつですが、多くカニが出回ることで価格が比較的安くなるのも冬にてっぽう汁が食べられる理由と言えるでしょう。小振りで身を少ししか取れないため、価格が安いカニをてっぽう汁にしていただくのです。
しかし、冬の時期以外でもてっぽう汁を食べることがあります。それは、冷凍保存したカニを使うからです。旬の時期に多く水揚げされたカニを冷凍保存しておき、旬の時期以外にもてっぽう汁を食べます。
北海道に足を運ぶのは難しいけれど、本場のてっぽう汁を味わってみたいという人は缶詰として商品化されているものも販売されているのでぜひご賞味ください。たっぷりのカニの身が入った根室地方の伝統的なてっぽう汁を味わうことができますよ。
てっぽう汁はフグを使ったものの方が有名?
実は辞書で「てっぽう汁」を調べると、ふぐを使った料理だと記載されているものが多いです。山口県や石川県、宮崎県などフグの生産地で食べられる料理で、フグの身を使った汁物のことをてっぽう汁と呼びます
フグの持つ毒・テトロドトキシンは、人体に有害な神経毒です。医療が発達していない時代には、フグ毒の中毒で死んでしまう人もいました。当たると死んでしまうこともあることから、フグは鉄砲と呼ばれていました。このことから、ふぐ汁のことを鉄砲汁と呼ぶようになったのではないかと考えられています。
フグを使ったものもカニを使ったものも、郷土料理に違いありませんが、北海道のてっぽう汁の方が後から知られたため、辞書などにはフグを使った鉄砲汁が掲載されているのだと考えられます。現代では、さまざまな情報が手軽に受け取れるようになり、カニを使った北海道のてっぽう汁も北海道の名物料理として多くの人に知られるようになりました。
まとめ
北海道・根室地方の郷土料理てっぽう汁について紹介しました。カニの身から殻まで余すことなく味わえるてっぽう汁は、古くから冷たい北の大地でカニ漁に勤しむ人々の冷えた身体を温めてきた料理です。
美味しいだけでなく、カニと味噌の豊富な栄養を摂ることができるのもてっぽう汁の大きな魅力のひとつといえます。
カニと味噌というシンプルな材料で作ることができるので、ぜひご家庭でも作ってみてはいかがでしょう。