フレイルって何? 症状と原因を知って、心身を整えよう
高齢の方の生活で気をつけたいのが、フレイル状態になってしまっていないかということ。フレイル(フレイルティ)とは「加齢により心身が老い衰えた状態」で、生活の質が落ちてしまったり、さまざまな合併症を引き起こす危険もあります。
本記事ではフレイルとは何か、その主な原因や予防法についてご紹介します。
フレイルって何? 病気なの?
フレイルは、状態を指す言葉であり、病気ではありません。海外の老年医学で「Frailty(フレイルティ)」と言われているものですが、これを日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などとなります。
厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされています。
※参考サイト:厚生労働科学研究成果データベース
フレイルは要介護状態の予備軍
高齢化により、生活にサポートが必要な要介護状態となる方もいますが、フレイルはその予備軍でもあり、健康な状態と要介護状態の中間とも言われています。
フレイルになるとどうなるの?
フレイル状態では、身体能力の低下や病気にかかりやすくなるなど、心身のストレスに対する抵抗力が下がります。抵抗力が下がっていると、風邪をひいて肺炎を起こしたり、体のだるさから転倒して怪我をしたりします。そのことで入院などをすると、環境の変化に適応できなくなり、感情をコントロールできなくなってしまったりもします。
フレイル状態で入院すると、そのまま要介護状態へと変化してしまうことも懸念されます。
フレイルは死亡率が上がる!?
フレイル状態になると、身体能力や認知機能が低下するため、死亡率が高くなることも! 身体能力が下がることで入院しやすくなってしまうのはもちろんですが、見逃せないのは精神的にも弱くなってしまうこと。ストレス耐性が下がることで、心身や社会性などでダメージを受けた場合に回復力が弱くなってしまうのです。
入院が必要になった場合は、ベッドでの生活を余儀なくされますから、より筋力が落ちる結果にもなります。
超高齢社会においてフレイルは大きな社会問題
超高齢社会を迎えている日本において、フレイルは大きな社会問題として捉えられています。フレイルになったとしても、適切なアプローチによって健康的な日常生活を取り戻したり、要介護へ転じるスピードを緩めることが可能です。しかし、“自分がフレイル状態だ”と多くの人が気づいていないのが現状です。
よく耳にするサルコペニアとフレイルの違い
混同しやすい状態にサルコペニアというものもあります。サルコペニアはフレイルの前段階である状態で、「加齢による筋肉量の減少および筋力の低下」のことを指します。
フレイルが、認知機能も含めた心身の活力の低下を意味しているのに対し、サルコペニアは筋肉量の減少と筋力の低下のみを意味します。
サルコペニアの原因
サルコペニアの原因は、ホルモンの減少や栄養不良、神経系、慢性的な炎症などさまざまなものがありますが、主な原因は筋肉(筋タンパク質)の合成と分解のバランスが崩れるためと言われています。本来、筋肉は合成と分解を繰り返しています。
若いうちはこのバランスが均等に保たれているため、普通の生活を送っていれば筋肉が大きく衰えることはありません。加齢により分解される筋肉の方が多くなると、普通の生活を送っているだけで徐々に筋肉量が減っていきます。
サルコペニアを予防するには
サルコペニアを予防するためには若い頃よりも食事と運動に気をつかうことが大切になります。適切な運動と、筋肉のもととなるタンパク質の摂取を心がけましょう。
これは結果的に、フレイルを予防するということにも繋がります。
フレイルによって起こる症状(診断基準)
「自分や家族がフレイルかどうか心配」という方は、医療機関の受診や医師の診断を受けることをおすすめします。なお、フレイルの判定にはLinda P. Fried(フリード)氏らが提唱した判定基準を日本人用に改編した5つの基準が採用されています。下記を参考にセルフチェックしてみるのも良いかもしれません。
- 体重減少
意図しない年間4.5kgまたは5%以上(半年で2kg以上)の体重減少 - 疲労感
週の半分以上、何をするのも面倒だと感じる - 歩行速度の低下
通常の歩き方で1.0m/秒未満である - 握力の低下
男性で28kg未満、女性で18kg未満の場合は注意です - 身体活動量の低下
軽い運動や体操、定期的なスポーツなどが週に1回未満
上記の項目に3つ以上当てはまる場合はフレイル状態、1~2項目ならプレフレイル状態(フレイルの前段階)と考えられます。
フレイルになるおもな原因
フレイル状態になってしまう原因は、加齢によるさまざまな状況が複合的にはたらいた結果と言われています。まずは加齢によって運動量が落ち、筋力が低下すること(サルコペニア)、循環器・呼吸器・整形外科・その他内科的疾患で活動や外出の機会が減ること、食事量の減少や、口腔内の不具合による栄養不良、配偶者や親しい友人との死別による環境の変化、これらの要因が影響しあって、フレイル状態に陥ってしまいます。
子供世代が独立し、自身も現役から退いた後は、社会と関わることが減ってしまって家に閉じこもりがちになることも。他人とコミュニケーションをとることが減り、食事も「孤食」が増えてきます。これもまた、フレイルの原因といえるでしょう。
フレイルになるのは特別なことではありません。
健康的な生活を送る健常な高齢者でも、運動機能や認知機能の低下、社会的孤立感など、加齢による影響は避けられません。なるべくその状態になるのを遅らせること、予防することが大切です。
フレイルを予防するには
フレイルは予防できるだけではなく、フレイル状態になった後でも、適切なアプローチである程度回復させることができます。フレイルは、加齢によるさまざまな要因が悪循環を起こすことが原因なので、まずはその悪循環に気づくことが第一歩です。早い段階で気づき、適切な対策を行うと、比較的簡単にフレイル状態から脱することができるとも言われています。
厚生労働省の報告書でも「適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とあります。つまりフレイルは「まだ間に合う」状態とも言えます。
フレイル予防➀ 適度な運動を大切にする
日々の生活のなかでフレイル予防をするには、まず運動と食事から。生活習慣病の予防や改善、運動機能の維持のために、ウォーキングやジョギングなどの軽い運動を定期的に行うことが大切です。これはフレイル予防だけではなく、健康寿命を延ばすという観点からも推奨されています。
フレイル予防➁ バランスの取れた食事を心がける
食事についても、筋肉量を維持できる食事を意識しましょう。加齢により、食事量そのものが減ってしまうことは仕方ありませんが、そのなかでも栄養を充分に摂れるように食材やメニューへの工夫が大切です。
まずは3食をバランスよく食べること。筋肉と骨の機能を維持するタンパク質、カルシウム、ビタミンDを多く摂ることを心がけて、あまり炭水化物に偏らないようにしましょう。
フレイル予防➂ 定期的な通院
糖尿病や循環器系、呼吸器系、整形外科など、体に不具合があるとフレイルに繋がる悪循環に陥りがちです。持病がある場合はコントロールできるように、通院や薬の服用などを忘れないように気をつけましょう。
感染症予防なども大切です。高齢者の場合は免疫力が低下しているため、インフルエンザや肺炎にかかりやすくなっています。適度な運動やバランスのよい食事で、感染症に強い体を作るとともに、対応するワクチンを打っておくのも対策のひとつです。
また、定期的な歯科検診も重要です。口腔内の不具合で食事がとれなくなることも多いので、日頃からの歯磨きや入れ歯のケア、虫歯の治療なども忘れずに行いましょう。
まとめ
フレイルそのものは特別なことではありませんが、フレイル状態に陥ってしまうとそこから先の寿命が短くなってしまいます。まずは予防すること、そしてフレイル状態になってしまったらその悪循環を断ち切ることで、健康寿命を延ばしましょう。
「もう高齢だから仕方ない」と諦めてしまっては、フレイルが進み、要介護状態へと変化してしまいます。より健康な状態で生活を送れるよう、一度ご家族で話し合ってみてはいかがでしょうか?