北海道の道鳥「タンチョウ」の特徴や鶴との違い
ツルは日本に生息する鳥類の中でも姿かたちが優美であり、その美しさから日本人に長く愛されてきました。そのツル科の中でも、「タンチョウ」は道民の投票によって「北海道の道鳥」に指定された気高い鳥。純白で美しい姿とともに北海道を代表する鳥として、広く親しまれています。
本記事では北海道を代表する「タンチョウ」の特徴、生態や分布状況、観察スポットをご紹介します。
「タンチョウ」とは?
「タンチョウ」は鳥綱ツル目ツル科ツル属に分類される鳥類。日本の野鳥の中でも大型で、全長は140㎝、翼を広げると250㎝近くにもなります。重さは6kg〜12kgほどです。
広く「瑞鳥」として神聖視され、アイヌの人々には「サロルンカムイ(湿原(葦原)の神」と呼ばれて親しまれてきました。
日本では一度は絶滅したと思われていましたが、1924年に釧路湿原で十数羽が再発見されました。現在は特別天然記念物、絶滅危惧種に指定されています。
タンチョウの特徴
タンチョウの特徴は何といっても「赤い頭頂部」。漢字で「丹頂」と書きますが、「丹」は赤、「頂」はてっぺんを意味し、頭のてっぺんが赤いことからこの名前がつきました。全身はほぼ白色で、首と羽の後部と風切羽の一部が黒くなっています。幼鳥は、頭から首、背にかけて薄い褐色で、翼の各羽の先端に黒斑があります。
タンチョウの生態
タンチョウは、湿原、湖沼、河川などにおもに生息し、昆虫やカニなどの甲殻類、カタツムリやタニシなどの貝類、ドジョウや鯉などの魚類、カエルやネズミなどの小動物、野草や果実などを食べて生活しています。
タンチョウの巣造りは3月下旬〜4月下旬。ヨシを主な素材にして、下面の平均直径1.6m、上面直径80㎝、高さ20㎝ほどの丸い台形の巣を作ります。その巣で、卵を1回に1〜2個産み、雄雌交代でその卵を温めます(卵を温める期間は約30日)。ひなは黄褐色の綿毛で覆われており、孵化してから約100日で飛べるようになります。寿命はおよそ30年。
夏場には群れを成さず、小さな群れか、つがいや親子で行動します。ただ、冬場はいくつかの家族で群れを作り、生活を行うのが特徴です。
どこに生息しているの?
日本では北海道東部の釧路・根室地方に生息しており、越冬期にはほとんどが釧路地域に集中的に分布します。
国外では、シベリアの南東部のアムール川流域、中国東北部に生息しており、冬季には朝鮮半島や中国東部に渡ります。北海道に生息するものの多くは、一年中北海道にとどまる「留鳥」と呼ばれています。
どんな鳴き声をしているの?
タンチョウの鳴き声にはバリエーションがあります。
まず、鳴き声で雄雌の性別がわかります。オスは「コー」と鳴き、メスは「カッカ」と鳴きます。これは、夫婦が絆を深めたり、なわばりを宣言する意味があるそうです。
威嚇したり、けんかをするときには「シャー」と鳴きます。仲間に「そろそろ帰ろう」と呼びかけるときには「クルゥッ クルゥッ」と鳴き、警戒時に仲間とコンタクトをとるときには「カカカカ」と大きな鳴き声を上げます。
また、親子の間では、親鳥が「コーゥ」と大きな声で呼び、幼鳥が「ピィピィ」と答えるそうです。
日本の生息状況は?
絶滅危惧種となっているタンチョウの生息状況を調べてみました。
生息個体数
平成30年度のNPOの調査によると、約1650羽が道内に生息しているそうです。世界の総個体数は約3050羽といわれ、半数以上が北海道東部を中心に生息していることになります。
生息数の推移
北海道での生息数は下記のように推移しています。
江戸時代までは北海道各地にたくさん生息していたようです(文献資料では、東北や関東、中国地方、四国、九州でも飛来や生息が確認できたようです)。
しかし、明治時代になると乱獲され、さらに生息地である湿原の開発などによって生息数が激減。その後、タンチョウと釧路湿原の繁殖地が天然記念物に指定されました。
戦後は、阿寒町や鶴居村など地元の人々による給餌活動が本格化し、生息数が順調に増加していきました。
タンチョウとツルの違い
タンチョウはツルの一種です。日本国内では、7種類のツルが観測されていますが、国内で繁殖するのはタンチョウのみです。
世界にはタンチョウを含め15種類のツルがいると考えられ、ナベヅル・マナヅル・クロヅル・カナダヅルなどがその代表格です。
タンチョウの保護活動について
一時は絶滅したと思われていたタンチョウですが、大正時代に釧路地方で再発見されました。その後の給餌などの保護活動によって生息数を増やせたことは、世界的にも有名。
生息数が増えた今、繁殖ができる湿原の環境保全など、新たな保護対策が課題になっています。そこで、タンチョウの保護対策の歴史を紹介します。
国と民間の保護対策
1935年にタンチョウはその繁殖地も含めて天然記念物に指定され、1952年には特別天然記念物となりました。1993年には「種の保存法」の施行に伴い、国内の「希少野生動植物種」に指定されています。
その後、自然保護団体などによる繁殖地の買い上げ運動(ナショナルトラスト運動)が起こり、給餌などの活動も行われるようになりました。
環境の保全
日本野鳥の会では、1987年に北海道阿寒郡の鶴居村に「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」を開設しました。給餌活動のほか、湿原の保全活動、繁殖環境の保全活動も行っています。
野鳥保護区の設置
1987年、日本野鳥の会は、根室市でタンチョウが巣を作る湿原を約8ヘクタール買い上げ、民間としては初めて野鳥保護区を設置しました。その後も湿原を買い取り、現在では22か所、約2463ヘクタールをタンチョウの生息地として保護しています。
営巣環境の回復
鶴居村の早瀬野鳥保護区内では、周辺の森林開発による土砂の流入により、タンチョウが繁殖できない環境になりました。早急にヨシ原(草地)を復元し、2002年から再びタンチョウの繁殖活動が始まりました。
日本野鳥の会では、生息の環境が悪化した場合、それを復元する環境管理活動を行っています。
飼育活動
給餌に依存する越冬環境の改善活動を行っています。森林伐採により土地の保水力が低下し、湧水が減少しました。
湧水減少による湿原の乾燥化により、湿原でもエサを探せない環境になっています。そこで、冬の採餌環境の改善のため、冬季の自然採食地を復元したり、増やしたりするなどの活動をしています。また、冬季の11月〜3月の間、餌不足解消のため、給餌活動を行っています。
普及教育活動
「タンチョウ・ティーチャーズ・ガイド」と呼ばれる環境教育プログラムを作成し、学校での授業やイベントでこのプログラムを使って普及しています。さらに、先生やネイチャーガイドを対象に、プログラムの講習会を開き、タンチョウ保護の重要性について普及できる人材を育成しています。
「ネイチャーセンター」を開設し、タンチョウの生態や保全状況などの情報を提供しています。
タンチョウの観察スポット
「タンチョウはどこで見られるの?」という人のために、道東の代表的なタンチョウの観察スポットをまとめてみました。
阿寒国際ツルセンター グルス
阿寒町は、タンチョウへの人口給餌の発祥の地です。冬場に野生のタンチョウがみられる給餌場の一つ。国内で唯一、タンチョウの生態や行動などを研究している施設で、生体の仕組みなどを説明した展示コーナーや、映像資料を集めたライブラリーなどを備えています。
住所 | 北海道釧路市阿寒町上阿寒23線40番地 |
---|---|
アクセス | JR釧路駅より車で約60分 |
電話番号 | 0154-66-4011 |
入館料 | 大人470円、小・中学生240円 |
休館日 | なし |
公式サイト | https://aiccgrus.wixsite.com/aiccgrus |
タンチョウ観察センター
タンチョウへ給餌をする11月〜3月に、飛来する野生のタンチョウを間近で観察できます。多い時には300羽以上が飛来するとか。こちらの施設は「阿寒国際ツルセンター グルス」の分館で、入館料は共通です。
住所 | 北海道釧路市阿寒町上阿寒23線39番地 |
---|---|
アクセス | JR釧路駅より車で約60分 |
電話番号 | 0154-66-4011 |
備考 | 本施設は11月~3月のみ開館 |
釧路市丹頂鶴自然公園
釧路空港から車で10分に位置し、タンチョウを季節・天候を問わず観察できます。通年で約20羽を飼育しています。
住所 | 北海道釧路市鶴丘112 |
---|---|
アクセス | JR釧路駅より車で約40分 |
電話番号 | 0154-56-2219 |
入園料 | 大人480円、小・中学生110円 |
休園日 | なし |
公式サイト | http://www.kushiro-park.com/publics/index/72/ |
鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
日本野鳥の会直営の観察施設。最大400羽近くのタンチョウが飛来します。
住所 | 北海道阿寒郡鶴居村字中雪裡南 |
---|---|
アクセス | JR釧路駅より車で約60分 |
電話番号 | 0154-64-2620 |
入館料 | 無料 |
休館日 | 4月~9月 |
公式サイト | http://park15.wakwak.com/~tancho/ |
鶴見台
タンチョウを群れで、間近に観察することができます。1月〜2月かけて180羽以上が集まる大給餌場です。
住所 | 北海道阿寒郡鶴居村下雪裡 |
---|---|
アクセス | JR釧路駅より車で約55分 |
電話番号 | 0154-64-2050 |
利用料 | 無料 *自然公園のため |
公式サイト | https://www.kushiro-shitsugen-np.jp/kansatu/turumi/ |
タンチョウ観察のマナー
特別天然記念物であるタンチョウ保護のために、観察時にはマナーをしっかりと守ることが大切です。
- 立ち入り禁止地域には絶対に入らない
- タンチョウには近寄らない、驚かせない
- フラッシュ撮影をしない
- 声を出さない
- 餌をあげない
このほか、ごみを絶対に捨てないようにしましょう。人が捨てたものを食べてしまう危険性があるためです。タンチョウを大切に思う心が大切です。
まとめ
純白の雪の上で、清楚なからだの色に、気品のある立ち居姿を見せるタンチョウ。その姿と色から「瑞鳥」とされ、人々に愛され、アイヌの人々からも神聖視され、広重の絵にも描かれています。
その美しく神々しい姿を、マナーをしっかりと守って観察しましょう。