PIPIYUK
北海道第二の都市である、旭川市の北部に隣接するまち、比布(ぴっぷ)町。北海道米でお馴染みの品種「ゆめぴりか」発祥の地であり、米づくりをはじめとする農業が盛んです。北海道最高峰の旭岳を有する大雪山系が「世界一きれいに見えるまち」としても知られています。
そんな比布町に2023年12月、エゾシカ肉をメインとしたジビエ工房がオープンしました。工房の代表を務めるのは、ハンターのだんみきさん。エゾシカの狩猟から解体、加工までを一手に担っています。
だんみきさんの生まれは香川県。小さい頃から動物が好きで、北海道は憧れの地だったそう。大学進学を機に北海道へ移住し、スノーボードや魚釣り、山菜採りなど、自然の中で遊ぶ楽しさを知ったと言います。
ハンターになったきっかけは、2021年に知人ハンターに誘われて参加した食事会。初めて狩猟の世界に触れ、「自分で狩った野生動物のお肉を食べたい」と心が動きます。大学で野生動物の生態について学んでいたことや、知人による後押しもあり、まずは狩猟免許取得を目指すことに。法令や制度に関する知識を半年ほどかけて勉強し、2021年夏に免許を取得。その後、2022年3月に猟銃所持の許可を得て、ハンターとなりました。
だんみきさんが行うエゾシカ猟は、自治体の許可を得て実施する「有害鳥獣捕獲」。都道府県ごとに登録して行う「狩猟」とは似て非なるものです。
有害鳥獣捕獲とは、農作物の被害や交通事故増加などへの対策として、年々増えているエゾシカの頭数を減らすために行うもの。捕獲の時期は自治体によって定められており、比布町の場合は一年通して行うそう。なお、隣接する旭川市では日程が決まっており、集団で行うことが多いとのこと。自治体によってスタイルが異なることも特徴のひとつだといいます。
捕獲されたエゾシカのほとんどは、焼却や埋め立てにより廃棄処分されます。
エゾシカのおいしさを伝えて消費を増やしたい。消費が増えることで捕獲量も増えて、エゾシカによる被害も減る。捕獲されたエゾシカも浮かばれるのではないか。ハンターとして腕を磨く中でそのような想いが芽生え、ジビエ工房 PIPIYUK(ピピユク)の建設に踏み切ります。
とはいえハンター歴もまだ浅く、工房作りも全くの未経験。比布町役場や商工会、猟友会などの協力を得ながら建設を進め、2023年12月に工房が完成。食肉処理業に必要な設備を整え、2024年2月から本格的に稼働をスタートさせました。
PIPIYUKで扱うジビエの特徴は、なんといっても鮮度の良さ。ネック撃ちやヘッド撃ちなど、鮮度を落とさない手法で捕獲されたエゾシカを素早く処理し、捕獲後2時間以内に工房に運ばれたものだけを使用しています。
「協力してくれるベテランハンターさんには感謝しかありません」とだんみきさん。ハンター同士のつながりを活かし、日頃から密に連絡を取り合っているからこそ、上質なジビエを提供することができるのです。
「PIPIYUK(ピピユク)」という名前は、アイヌ語で「比布のシカ」という意味。ご自身がハンターになったことで、かつて狩猟生活をしていたアイヌの人々の考えに共感するようになりました。
一番の変化は、どんなことにも感謝の気持ちを忘れないアイヌの人たちのように、今生きていることへの感謝を抱くようになったこと。自ら捕った獲物が血となり肉となる。「おかげさまで生きている」という感覚を、日々の生活の中で実感していると言います。
今後は加工販売のほかに、地域イベントでのソーセージ手作り体験なども考案中とのこと。「ジビエを身近に感じてもらう機会を増やして、地域に根付いた工房にしていきたい」というだんみきさん。自ら楽しむことを大切にしながら、アイディアを形にしてきました。PIPIYUKから生まれる新たな循環に、今後も注目です。